心と体のメンテナンス

ADHDを知ろう : 症状と治療(前編)

ADHDは神経発達障害
異なる脳の構造や容量

 

Q.ADHDはどういう病気ですか?

A.

「注意欠如・多動性障害」といい、英語でAttention Deficit Hyperactivity Disorderの頭文字をとって「ADHD」です。ハイパーアクティブでじっとしていない子供のイメージが強いですが、実はそうでなくても、注意欠如だけでADHDと診断されます。症状別に3つのタイプがあります(左表)。

子供の5%、大人の2・5%が罹患しているといわれ、男女比は1・6〜2対1で、男子の方が多いです。女子は表の「①不注意優勢型」が多いと言われます。

ADHDの原因は、神経発達学的に脳の構造と容量が他の人と異なること。ADHDの子供の脳の容量は、そうでない子供よりもはるかに少ないことが、多くの研究で示されています。といっても、知能が低いわけではありません。ADHDとは、その脳の特殊な構造がゆえに、情報処理の仕方が他の人と異なるだけで、多分に「社会的病理」と言えます。

※日本クラブ・日本人医師会共催ウェビナー「ADHDの症状と治療」の、斎藤先生の解説資料から

 

Q. 社会的病理とはどういう意味ですか?

A.

例えば原始時代なら、ADHDの能力は猛獣の足音を誰よりも早く察知し逃げるための、非常に有用なサバイバル能力だったはずです。〝凡人〟が気付かない物音や気配に敏感に反応できるのですから。ところが、コンピューターの前で何時間も座って作業をする能力が求められる現代社会では、そのADHDの能力は欠陥になってしまいます。社会的病理とはそういうことです。

現代社会では、ADHDの子供はその症状がゆえに学業も振るわず、先生や親に叱られ、友達とも問題を起こします。それらが続くと自己肯定感が下がり、非行や薬物使用に発展することもあります。

しかし、適切な時期に適切な治療を受けることで、そういう事態を避けることができます。さらに、成長とともに多くの患者さんの症状が落ち着くのもADHDの特徴です。それにはまず、保護者がADHDの知識を持ち、気付いてやること。よく「うちの子は落ち着きがない」とか「やる気がない」と、単に「気合い」の問題だと思っている保護者がいますが、そうではないことを知ってほしいです。

 

Q.3つのタイプのそれぞれの症状は?

A.

不注意優勢型は、▽凡ミスが多い▽細部に注意を払えない▽集中を持続できない▽話しかけられても気付かない▽整理整頓できない▽物を無くす――など。他にもいろいろありますが、17歳以上はこれらの5つ以上、17歳以下は6つ以上の症状が6カ月以上継続すると、ADHDだと診断されます。大人のADHDにはこのタイプが多く、例えば「1ページ10問ほどの簡単な質問票を読む根気がなく、記入できない」などの症状で相談に来る人もいます。

多動性衝動性優勢型は、▽いつも体のどこかが動いている(小さい子供なら走り回る・回転椅子に座りグルグル360度回転させるなどの全身行動。小学校高学年〜中高生なら、貧乏ゆすりや鉛筆をクルクル回すといった、体の一部の継続的な動作)▽すぐ席を立つ▽常にうるさい▽授業で当てられないのに発言する▽順番が待てない▽大人の会話に割り込む――など。

ADHDの合併症として多い症状は、

▽反抗挑発症(大人に反抗する)

▽素行症(盗みや傷害に走り、罪の意識がない)

▽情緒障害(うつ病など)・不安障害

▽違法薬物の使用

▽チック(体のどこかピクピク動くとか、言う気もないのに汚い言葉が口をついて出るなど)です。(後編につづく)

 

 

 

 

 

 

 

斎藤恵真先生
Ema Saito, MD
_________________
ザッカーヒルサイド病院入院病棟部長。
入院患者のケア、臨床研究、研修医・医学生教育に携わる。
ドナルド&バーバラ・ザッカー・ハウストラ/ノースウェル医科大学精神科教授。
札幌医科大学卒、日本で2年間の研修後来米。
ニューヨーク市、近郊の病院で小児科、精神科、小児精神科の研修修了。
臨床研究職を経て現職。
米国内外での研究論文発表多数。
在ニューヨーク日本総領事館精神科顧問医。

 

The Zucker Hillside Hospital
Department of Psychiatry

75-59 263rd St.
Queens, NY 11004
TEL: 718-470-8390

 

 

 

NYジャピオン 最新号

Vol. 1275

国内旅行で人気再燃 ハワイを満喫しよう ─ハワイ最新情報・前編─

今年9月にアラスカ航空とハワイアン航空が統合し、ホノルルを第2の主要ハブとして確立させると発表。また、今年の国内旅行(*1)の人気ランキング第4位は、オアフ島が選ばれるなど今再び注目されている。小さな子供連れからシニア世代まで十分に楽しめるオアフ島を中心にハワイの魅力を特集してみた。来年春休みの旅先として計画してみては!(*1)U.S. News Travel調べ

Vol. 1273

トランプ大統領による新政権 第2章が遂に動き出す

米大統領選挙は今月5日投開票され、米東部時間6日午前5時30分過ぎに共和党候補のドナルド・トランプ前大統領(78)の勝利が確実となった。一方、民主党候補だったカマラ・ハリス副大統領は6日午後、首都ワシントンで演説し敗北を認めた。支持者らに向け、理想のために戦うことを「決してあきらめない」よう訴え、「この選挙結果は私たちが望んだものではない」としながらも、平和的な政権移譲が必要だと強調した。1期目とは全く異なると言われるトランプ政権2期目の行方はいかに。

Vol. 1272

リトルポルトガル味めぐり

ニュージャージー州ニューアークはポルトガルからの移民とその子孫が多く暮らしていることで有名だ。今週は日本人の舌にも合うポルトガルの味を探訪、併せてリトルポルトガルの成り立ちにも迫る。