心と体のメンテナンス

「コロナ太り」と体重管理(前編)

パンデミックの自宅待機で
摂取と消費のバランス崩壊

Q. 「コロナ太り」のメカニズムは?

A.

体重増加は、エネルギーの摂取量と消費量のバランスが崩れることで起こります。食事による摂取エネルギーが、運動や生活による消費エネルギーを超えると、脂肪が蓄積し太り出します。このバランスが、パンデミック中の自宅待機で運動量が減り、大きく崩れた人は多いはず。在宅が増えると生活で消費するカロリーが減り、ストレスもたまるので、つい間食や酒量が増えます。たちまち太り出すのは、当然といえば当然でしょう。

 

Q. 運動の消費エネルギーはどのくらい?

A.

普通の人の1日の消費エネルギーは、成人男性で平均2000〜2200カロリー、女性で1800〜2000カロリー。同じ量のエネルギーを食事で摂取すれば、体重を維持できます。このうち基礎代謝(心臓の鼓動や呼吸など、生命維持に必要な体の働きを支えるエネルギー消費量)に消費されるエネルギーが実に60%、運動(ランニングなど)・生活(通勤や掃除などの動作)が30%、体温調節が10%と言われています。

基礎代謝は筋肉が多いほど高くなります。では、痩せるには筋肉量を増やして基礎代謝を上げるのが最も効率的な気がしますね。もしくは運動して消費エネルギーを上げるか。しかし、いくら筋トレしても一朝一夕で筋肉はつきませんし、ランニング30分で消費できるエネルギーはせいぜい200〜300カロリー、歩いた場合は100カロリー以下です。

一方で、ご飯一杯は約240カロリー。必死で走った30分の消費カロリーなど、一食で帳消しですね。間食にメロンパン1個食べると約300カロリー。運動による減量がいかに難しいか、お分かりいただけるでしょうか。

では食事制限をすればいいかというとそう単純でもありません。食事量が極端に減ると、エネルギー消費源である筋肉が減り、基礎代謝と運動による消費エネルギーが減るので、思ったように体重も落ちません。 その状態で食事制限を解除すると脂肪の蓄積が始まり、体脂肪の多い体になります。そうすると基礎代謝が落ち、さらに痩せにくい体になってしまいます。

結論から言うと、エネルギーの摂取量と消費量のバランスを取りながら体重を減らすことは、複雑な要素が絡み合い、大変難しいということです。

 

Q. 太り過ぎ、肥満の目安、定義は?

A.

BMI(Body Mass Index=「今週の英単語」と左上の表参照)が目安になります。世界保健機関(WHO)による国際基準は、太り過ぎがBMI25以上、肥満が30以上。理想は18・5〜24・9です。

ちなみに日本肥満学会の肥満の定義は、BMI25以上と、国際基準よりずっと低く設定されています。確かに、肥満は東洋人よりもアメリカ人を含めた西洋人に多いのは事実です。肥満が、遺伝的要因に影響されること、つまり人種や体質にも関係するという研究論文は多く出されています。

 

樋口先生が作った「BMI(Body Mass Index)」早見表。▲表上=身長170㎝で体重64kgなら、BMIは22で標準値(18.5〜24.9)範囲内。▼表下=最も疾患リスクが低いのもBMIが22の人

 

Q. 肥満・太り過ぎと精神衛生の関係は?

A.

一般論ですが、肥満や糖尿病、脂質異常症(高脂血症)の人は、鬱(うつ)になる傾向が強いことが知られています。鬱の人は、昼間の間食や、夜間飲食をしがちで、運動にも興味がなくなるので、悪循環となります。

パンデミック中は、自宅待機による孤立感の増幅から、精神衛生面への悪影響も指摘されました。(後編につづく)

 

 

 

 

 

 

樋口聖先生
(Sei Higuchi, PhD)

_________________

コロンビア大学博士研究員。
脂質代謝と食欲の関係を解明し、新規の肥満・糖尿病治療法の提案を目指している。
薬学博士、薬剤師(日本の免許)。
城西大学大学院で薬学研究科修士課程を修了後、福岡大学大学院で薬学研究科博士課程を修了。
京都大学医学部博士研究員を経て、2015年から現職。
ニューヨーク日本人理系勉強会(JASS)幹事など。

 

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