心と体のメンテナンス

パンデミック生活とメンタルヘルス(前編)

人と交流できない苦しさ
自分をいたわり、優しく

 

Q. パンデミックが、メンタルヘルスにどう関わってくるのでしょうか?

A.

人間は、人とのつながり・交流を求めるようにプログラムされている「ソーシャルアニマル」です。人間の脳は、人と接しているときに活性化されることが、科学的にも証明されています。ところがパンデミック中は、感染防止のための自宅待機とソーシャルディスタンシングで、人と関わらずに生活することを強いられました。これは、「ソーシャルアニマル」としての人間の本能に反する行動なわけです。当然、影響も出てきます。

 

「パンデミック中、小さなプラントを育てるとか、室内に大きな木を置いて野外感を演出するとか、小さな喜びを見つけることが精神的なリフレッシュにつながります」と青木さん

 

Q. カウンセラー視点で、この1年を振り返っての印象は?

A.

パンデミック中を通して、カウンセリングの件数が増えました。これは私だけではなく、他のカウンセラーも感じていることです。

特に昨年秋ごろから相談件数が増えています。主な理由は、長引くパンデミックによる疲弊と、先が見えない不安だと思います。

ニューヨーク周辺では夏は感染件数も減少していましたが、秋になってまた増え始めたことによる脅威もあったでしょう。日照時間が短くなり、寒い冬に向かうという季節的な要因も大きいと思います。冬は、ただでさえ気分が落ち込む人が増える季節なのに、 今年はコロナ禍のために一層閉塞感が深まりました。

秋の新学期で、学校が再開されることで落ち込む子供もいました。学生がみんな学校に戻りたいかというとそうではありません。自宅待機と遠隔授業の方を好む、もともと不登校気味の子供は決して少なくないのです。コロナ禍で学校が閉鎖されている間、彼らは「自分だけが学校に行かないのではない」という安心感を持つことができていました。同じ理由で、うつや不安症で職場への通勤ができないといった成人も、みんなが自宅待機するパンデミック中は、逆に安心感が増していました。

 

Q. 感染予防意識の温度差によるトラブルもあるのでは?

A.

友人・知人の間での、集まる・集まらないをめぐる意見の違いは、多少の気まずさを伴っても、大きなトラブルには発展しません。子供の誕生パーティーに呼ばれても、「マスクもせずに大勢が集まる場には行けない」と思ったら、断ればいいわけです。

問題は、家庭内で温度差がある場合です。例えば、子供の学校再開にあたり、遠隔・登校・ハイブリッドのどれにするかで夫婦で意見が真っ二つに割れ、家庭内でけんかが絶えなくなるとか、クラスメートのパーティーに呼ばれた高校生の娘が、「親の許可が出ないのはうちだけだ」と、親子の仲が険悪になるとか。または、ニューヨークから日本に一時帰国したいと思っても、感染を懸念する日本の家族から「帰ってくるな」と言われ、落ち込んでいた人もいました。

これらはいわゆる「パンデミックあるある」で、家庭内だと意見の相違からの口論や感情がヒートアップしがちです。

 

Q. パンデミックを元気に乗り切るコツは?

A.

コツと言えるかは分かりませんが、発想を柔軟にして、自分をいたわってほしいです。こういう非常時には、自分に厳しくするのではなく、「ゆるゆる」で甘くいきましょう。

それから、人間は進歩を感じたい生き物です。小さいことでいいので、何かを始めるのはとてもいいことです。クライアントの中には、「小さいプラントを育て始めました」「初めてパンを焼きました」という人もいます。(後編につづく)

 

 

 

 

 

青木貴美さん
(Kimi Aoki, LCSW)

_________________

心理療法士、臨床ソーシャルワーカー。
ニューヨーク大学大学院ソーシャルワーク修士課程卒業。
コミュニティークリニック勤務を経て2008年開業。
18歳以上の大人を対象に、育児・夫婦・家族・恋愛・人間関係に関する悩みや、気分の落ち込み、不安、パニック、ストレス、不眠、適応などの問題に応じる。
相互扶助団体・ニューヨーク日本人シングルマザーの会主宰。

 

現在遠隔カウンセリングのみ
NY、NJ、TX、IN州在住者対象

TEL: 917-531-0968
mail@kimiaokitherapy.com
kimiaokitherapy.com

 

 

 

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