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転倒の危険は誰にでもありますが、特に高齢者の場合、けがからの回復に時間がかかり、転倒をきっかけに自立生活が難しくなったり、寝たきりになったりすることがあります。社会の高齢化に伴い高齢者の転倒も増えており、医療費負担が大きいことからも、アメリカでも日本でも政府レベルで転倒予防に力を入れています。
米疾病対策センター(CDC)によると、アメリカ では65歳以上の4人に1人以上が1年に1回は転倒しています。全ての人がけがをするわけではありませんが、怖いのは頭部のけがと骨折です。転倒は65歳以上のけが関連の死亡原因のトップで、2007〜16年で、転倒による死亡率が30%上昇したそうです。このままのペースで上昇すれば、転倒により亡くなる人の数が近年の1時間に3人から、30年には1時間に7人に増えることが予想されています。
転倒の場合、けがが直接の死因になることもありますが、それ以外にも骨折などによって寝たきりになり、その後全身が弱って亡くなる人もいます。けがから回復しても、また転ぶかもしれないという恐れから外出や運動を控え、その結果体力が低下し、再び転びやすくなる悪循環に陥ることもあります。CDCによると、一度転ぶとそうでない人に比べ、再び転ぶリスクが倍増するという調査結果も報告されています。
病気や薬の影響、視力低下、足の痛みなど、転倒はさまざまなリスク因子が重なって起きると考えられますが、足腰の衰えもその一つです。
年をとって筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下した状態を、英語で「サルコペニア(sarcopenia)」といいます。特に下半身の筋肉の減少と筋力低下は著しく、転びやすくなってしまいます。太ももの筋力が低下すると、歩くときに脚を持ち上げる力が弱くなり、縁石やじゅうたんの縁など、ちょっとした段差にもつまずきやすくなるからです。
サルコペニアが進行すると、人によっては認知機能障害やうつなどの精神・心理的問題などを併発し、心身ともに虚弱になり、徐々に要介護状態になる危険が高まります。この状態を英語で「フレイルティ(frailty)」といい、日本では「フレイル」という造語で呼んでいます。
サルコペニアもフレイルも、適切な対応によって進行を遅らせ、症状を改善することができます。アメリカでは歩行速度や所定時間内にスクワットが何回できるかなどを測定することにより、サルコペニアまたはフレイルを早期発見し、進行遅延や回復につなげる試みが行われています。
転倒予防のポイントは、適度な運動と、筋肉のもとになるたんぱく質の摂取により、弱った筋肉を鍛えることです。
運動は、筋トレのように筋肉に負荷をかける「無酸素運動」を1回30分、最低週2回継続することが推奨されています。ウォーキングやジョギング、エアロビクスなどの「有酸素運動」も必要で、例えば1日平均7000歩を目標に歩くといいでしょう。
運動が難しい人には、椅子を使ってやるスクワット運動をお勧めします(写真参照)。目安として1セット20回の立ち座りを、朝昼晩と1日3セット続けます。
たんぱく質は、体重1キログラムあたり1グラムを毎日食事から摂取することが望ましいとされています。体重50キログラムの人は1日50グラムのたんぱく質を、肉や魚、大豆、乳製品などから取りましょう。
運動も食事もできることから少しずつ始め、継続することが大事です。治療中の病気がある人や、食事と運動について分からないことがある人、運動後に異常を感じた人は、医師に相談してください。
60代を過ぎると、腰や膝、足首の痛み、脚のだるさなど、下半身の問題や異常を訴える人が増えます。転倒予防はそうなる前に始めるのが理想ですが、何歳からでも遅くありません。80歳を過ぎてから運動を始め、身体機能が改善し、気持ちも生き方も前向きになった例を私はたくさん見てきました。
転倒予防だけでなく、心身のメンテナンスのためにも適度な運動と栄養摂取に取り組みたいですね。
※次回も転倒予防について伺います。
林美香先生
Mika Hayashi, DPM
足病医学博士(DPM=Doctor of Podiatric Medicine)、米国足病医学会認定足病専門医師。
ニューヨーク大学付属関節疾患専門病院提携医師。
ニューヨーク足病医科大学卒業後、聖ビンセント病院足病外科・医科研修修了。
日本での足病ケア普及に尽力。足の悩みを持つ人もきれいに履けるハイヒールブランド「Dr Mika H. New York」を開発、日米で販売する。
林美香足病科クリニック
350 Lexington Ave., #501
(入り口は40th St.沿い)
TEL: 212-682-0033、
212-682-0043(日本語)
www.mikahayashi.com
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