巻頭特集

フライフィッシング入門

アップステートNYはフライフィッシング発祥の地。今週は、その魅力とフライフィッシングに最適なニューヨーク近郊のスポットを紹介する。(取材・文/加藤麻美)


繊細で極めて戦略的なスポーツ
フライフィッシングを始めてみよう

清流の中で体と頭の鍛錬が同時にできるフライフィッシング。その道30年の達人、名倉学さんにフライフィッシングの魅力を聞いた。

—フライフィッシングの魅力とは?

一言で言えば「清流で頭と体、技術を駆使して挑むスポーツ」です。フライフィッシングの世界では、フライ(針の付いた疑似餌)のサイズ、色、形、これら全てがマッチしない限り魚を釣ることはできません。ここではフライフィッシングの代表的な魚、トラウト(マス)を例にお話ししましょう。

トラウトはまず、清流でしか生きられません。生存に適した水温は華氏55〜65度で、75度以上になると息ができなくなり死んでしまいます。汚染された川や海にトラウトはいないし、川の中でも生息できる場所は限られています。

また、餌となる虫が流れて来る場所でないといけません。トラウトにはフィーディングパターン(餌を食べる習慣)というものがあります。冬の間に何も食べていないトラウトは、春になって虫の活動が活発になってきた時期に、流れてくる幼虫や成虫をむさぼるように食べ始めます。

夏になると水温が上がり過ぎて、トラウトの食欲は落ちるようです。そして、産卵前の秋にも食欲旺盛になります。季節によって食べる虫の種類や時間が異なるため、フライのパターンもそれに合わせて変える必要があります。

要するに、場所、季節、時期、時間帯、天候、水温、虫の生態系の変化、釣り人のスキルなど、タイミングが全てマッチしない限りトラウトを釣り上げることはできないのです。繊細かつ極めて戦略的なスポーツで、それが一番の魅力ですね。

雨が降って川の水が汚れると釣れないし、自然環境を全て把握した上で釣り人はベストなコンディションを見つけ出して、それに合わせてフライを選び、プレゼンテーション(フライの水中、水面への流し方。釣り糸が引きずったら=ドラッグ=、魚は偽物と察知して食い付かない)しないといけない。加えて川や湖・渓流で、腰まで水に浸かって1日を過ごすと、知らない間に体を相当動かすことになります。いい運動になりますよ。

—どんな釣り方があるのですか?

 フライフィッシングでの釣りは3つの方法があります。1つ目は水面で釣る方法です。これは、ライズ(魚が水面にある虫を食べるために、水面に頭を突き出すこと)を狙って、水面にフライを浮かべ、糸がドラッグしないようにフライを流す方法です。2つ目は水中で釣る方法です。この方法ではニンフという虫の幼虫に似せたフライを使用します。これ以外に、水面下ぎりぎりで、ニンフが上がってふ化する瞬間を狙う方法もあります。3つ目はストリーマーというルアーの代わりにフライをつけるイメージです。

—ニューヨーク近郊でおすすめの釣り場は?

 フライフィッシングの「大物」ブラウントラウトを釣りたいなら、ルート17をハンコックへ。同地周辺のデラウェアリバー西支流はニューヨーク市近郊で最も大物かつワイルドなブラウンが釣れる場所です。

—初心者にアドバイスをお願いします。

 「初日から釣れると思うな」ですね。フライの選び方や作り方、リールの扱い方、キャスティング(投げ方)など、根気よく練習を重ねることが大切です。

 一からフライフィッシングを始める場合は、専門のクラスを取って基礎からしっかり学んだ方が早いと思います。スクール、宿泊施設、レストラン、ガイドサービスと、至れり尽くせりのリゾート(※)もありますよ。

※ウェスト・デラウェア・アングラー・リゾート

westbranchresort.com

 

ニューヨーク州で釣れるトラウト

ニューヨーク州環境保全局(DEC)は毎年、約230万匹のブルックトラウト(カワマス)、ブラウントラウト(クロマス)、レインボートラウト(ニジマス)などを州内の約300の湖や池、およそ3100マイルに及ぶ小川に放流。これらの小川の多くには野生のトラウトも生息している。小川の多くには釣り人が水辺に立ち入れる公共釣り地役権(パブリック・フィッシング・ライツ: PFR)が設定されており、通常「Public Fishing Stream」と書かれた黄色の標識が掲示されている。DEC info Locatorでは、PFRの場所、駐車場、ストリーム・リーチ・カテゴリーを確認できる(5Pの囲みを参照)。

Brook Trout カワマス

ニューヨーク州原産の魚。ニューヨーク州の州魚でもある。中小規模の小川、湖、池など、華氏72度以下であればどこにでも生息。レインボートラウトやブラウントラウトよりも冷たい水を好む傾向があり、川の源流域に生息していることが多い。ただし、名倉さんによると、ニューヨーク市近郊で見ることは「まずない」とか。

 

Brown Trout クロマス

1880年代にヨーロッパから持ち込まれ、現在ではニューヨーク州全土の小川、川、池、湖に生息し、ブルックトラウトよりも高い水温に耐えることができる。ブラウントラウトは警戒心が強いことから、釣り人から「釣りがいのある魚」と呼ばれている。写真は名倉さんがリトル・ポンド・キャンプ・グラウンドで釣り上げたブラウントラウト。

Rainbow Trout ニジマス

太平洋岸が原産。1870年代にニューヨークの水域に導入された。小川、川、湖、池に生息し、ブラウントラウトと同様、ブルックトラウトより高い水温に耐えることができる。写真はティティカス・リザボア・アウトレットで名倉さんが釣り上げたレインボートラウト。

 

トラウト釣り@キャッツキルマウンテン

米国のフライフィッシング発祥の地、キャッツキル山地には東海岸有数のトラウトストリームがいくつも流れている。

Delaware River デラウェアリバー

デラウェア川西支流、特にキャノンズビル貯水池から東支流への合流点までの12マイルはトラウトの最高の釣り場。この区間ではトラウトの放流が行われていないため、釣れるのは全て野生のトラウト。DECは、キャノンズビルダムすぐ下流にあるデポジット村とその周辺に、1マイル以上のPFRを設置。また、キャノンズビル貯水池北のデラウェア川西側にも広大なPFRがある。デラウェア川東側には、ペパクトン貯水池から30マイルに及ぶ区間に放流魚と野生のブラウントラウトが共存するエリアがある。

Willowemoc Creek ウィローモッククリーク

26マイルにわたって流れるウィローモッククリークは、ロスコー村でビーバーキル川に合流する。上流は渓流で、合流地点では広い小川になる。放流と野生のブラウントラウトが豊富に生息し、上流に行くほど野生の割合が高くなる。春と並んでブラウントラウトが産卵のために遡上(そじょう)する秋がピークシーズン。ベストスポットは、リビングストンマナーからジャンクションプールのビーバーキル川との合流点までの低地。州道17号線がこの下流域を横切っており、複数の釣り人用駐車場と数キロに及ぶPFRがある。

Esopus Creek エソパスクリーク

キャッツキル山地北東部にあるハドソン川の支流。ニューヨーク市の水源として利用されているエソパスクリークは、水質の良さと野生のブラウントラウトやレインボートラウトが豊富に生息していることで有名だ。エソパスクリークはダムでせき止められてアショカン貯水池となり、同貯水池からフェニキアまでの間には、巨大トラウトが生息している。アショカン貯水池にもブラウントラウトが放流されており、毎年秋になると、産卵のために上流に向かう。

Beaver Kill River ビーバー・キル・リバー

デラウェア川東支流の主要な支流であるビーバーキル川は、キャッツキル山地を代表するトラウトストリーム。野生のブラウントラウトが川全域に生息し、野生のブルックトラウトはビーバーキル上流(ロスコー村の北)でよく観察される。その数は上流に行くにつれて増えていく。DECは毎年1万8000匹以上のブラウントラウトを放流しており、ビーバーキル川下流に何キロにもわたりPFRを設けている。ちなみにロスコー村は「トラウトタウンUSA」と呼ばれている。

Neversink River ネバーシンクリバー

ネバーシンク貯水池からの放流水によって夏も水温が涼しく保たれる、テールウォーターリバー。質の高い野生のブラウントラウトが生息しており、毎年5000匹以上のブラウントラウトも放流されている。「ドライ・フライ・フィッシングの父」として知られるセオドア・ゴードンが伝統的なイングリッシュフライを改良し、ネバーシンク川の昆虫の羽化に合わせて改良したことから、同川は「アメリカにおけるドライ・フライ・フィッシングの真の発祥の地」とされている。

 

〜名倉さんおすすめ〜

どうしてもトラウトを釣りたいなら、ここ!

Connetquot River State Park Preserve  コネコートリバー州立公園保護区

マンハッタンから約50マイル、ロングアイランドにある州立公園で、初心者でも必ずと言っていいほど釣れます。釣りのできる場所を選ぶのは早い者勝ちなので、前日から車内泊をしたり、早めに行くのがおすすめです。(名倉さん)

釣り・公園情報: parks.ny.gov

フライフィッシング実践編

ニューヨーク州のトラウトシーズンは毎年4月1日から10月15日まで。ただし、キャッチ&リリースのトラウトフィッシングは、ほとんどの水域で年間を通して許可されている。

(1)ライセンスとパーミットを取る

ニューヨーク州内で淡水釣りをするにはまず、ライセンスを取得しなければならない。キャッツキル山地を含むニューヨーク市管轄の貯水湖で釣りをする場合は、通常のフィッシングライセンスと共にDEPが発行するアクセスパーミットの取得が必要だ。ライセンスはDECのウェブサイトから購入できる。名倉さんによると、川や湖によって釣っても良い魚の種類やサイズ、釣りの方法などが細かく決められているので、事前にレギュレーションをしっかり読んで出掛けること。違反すると、罰金を科されるほか、釣り具やパーミットを没収されることもあるという。

● ニューヨーク州フィッシングライセンスの購入: dec.ny.gov

● 釣りをする川のレギュレーション: dec.ny.gov

(2)道具を購入し情報を集める

フライフィッシングの道具

①ベスト、ネット、フライロッドは1本では持ち運びできないので、通常2〜8本に分割したものをつなげて使う

②川に向けて用意した釣り具

③ドライフライ(川によって異なる特殊なフライもある)

④ニンフ(水の中に沈めるフライ)

⑤ストリーマー(フライの1種。川の上流から投げて引き上げるタイプ。ルアーフィッシングに似ている)

(3)フライフィッシングの道具が買える店

名倉さんのおすすめはこの2店。フライフィッシングに詳しいスタッフが釣り具や装備の整え方を教えてくれる。フライフィッシングクラスの情報などもゲットできる。

ORVIS 489 5th Ave. orvis.com

Urban Angler 381 5th Ave., 2nd Fl. urbanangler.com

実践編知っておきたい渓流でのエチケット

気分良く釣りをするためには、エチケットを守ることが大切だ。

先に釣っている人と一緒にならない

よく釣れているポイントに出くわしたら、魚が食べるのを止めないように、離れた場所で立ち止まり、釣り人から離れた流れの別のポイントに移動しよう。

ポイ捨てをしない

清流でないとトラウトは生息できないので、北米では環境保護のためにもトラウトが生息できる水質を保つことが重要とされている。釣りの終わりには、釣りを始めたときと全く同じような環境であるようにしたい。自分が出したごみや他のごみを見つけたら必ず持ち帰ろう。また、釣り具を清潔に保ち、ディディーモ*のまん延を防ごう。

釣り人と友好的になろう

少し話をすることで、その日どのようなパターンがベストなのかが分かったり、何かしらヒントが得られたりすることもある。

トラウトに敬意を払おう

トラウトは釣り人の良き挑戦者。キープするなら、食べるものだけを残し、それ以外はリリース**しよう。


*ディディーモ(Didymo、別名:岩の鼻くそ)

外来種の侵入藻類で、川底に厚い茶色のマットを形成し、環境を汚染する。ブーツ、釣り道具、ウェーダー、ボート、トレーラーなどに付着し、下流に流れていくことで広がる。釣り具を清潔にすることは、ディディーモのまん延を防ぐのに役立つ。

**キャッチ・アンド・リリース

生存率を高めるために、釣り上げた魚は必要以上に遊ばせない。手指が乾いていると、トラウトの粘液のコーティングが剥がれてしまうので、リリースする魚に触れる前は必ず手を濡らすこと。その際、エラには触れないようにする。ランディングネットを使用すると、生存率がさらに高くなる。

 

キャンプ場や釣り場、どんなトラウトが釣れるのかが一目瞭然!

ニューヨーク州環境保全局が提供する

DEC info Locator gisservices.dec.ny.gov/gis/dil

フライフィッシングとキャンプの達人、名倉さんもびっくり。「アウトドアが好きのニューヨーカーがこのサイトを見たら、もうドキドキものです!」

 

名倉学さん

MAXコンサルティンググループ代表取締役社長

バックパッキングによるソロキャンプ歴は1984年から。

91年からはニューヨークでキャンプと釣りを開始。

92年からフライフィッシングを開始して以降、モンタナ州に頻繁に釣行。

趣味はバイクと釣りとキャンプ。

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