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目の前に繰り広げられる事象に、飽くなき探究心を持って対峙(たいじ)する。絵という媒体を通して、世界を構成する意味について再考するアーティスト、新宮大史さんの作品を探っていく。
アートに強くひかれるきっかけとなったのは、学生の頃に訪れた村上隆の展覧会だった。大学受験のために美術予備校に通ったが、受験勉強よりもアートそのものに興味を持ち、美術史にのめり込む。予備校帰りには、近所の書店にあった美術書コーナーにある本を片っ端から見て過ごし、4年の月日がたったという。
その後、東京芸術大学デザイン科に進み、卒業後は村上隆率いるアートカンパニー、カイカイキキに入社。アートに興味を抱くきっかけとなった憧れのアーティスト、村上隆の元でアート制作に関する幅広い現場を見た。カイカイキキ在籍中に休暇で訪れたのがニューヨーク。チェルシーで開催していた現代美術家・松山智一氏の展示に訪れ、世界で通用する日本人アーティストの底力を実感したという。いつか必ずこの場所に戻ろう、そう決めて会社を辞めた頃、友人から美術予備校で働かないかと誘われる。
ニューヨークへの道のり
自身も予備校に長く在籍した学生だったこともあり、純粋にアートの面白さに触れられる美術予備校で働けるのは、願ってもない好機だった。講師業には持てる全ての力を捧げた。アルバイトとして入社してから次々と大きな仕事を任され、最も規模の大きいデザイン科を統括するようになる。毎日アートに触れるため知識は蓄積され、自分なりに前進している実感はあった。しかし、アーティストとして活動していない自身が、生徒に教えられることに限界を感じていたという。
そんな中、前職の同僚からニューヨークに来るように誘われる。松山智一氏が運営するMATSUYAMA-STUDIOで、絵画制作スタッフとして働いてほしいというものだった。いつか戻ると心に決めていたニューヨーク。10年の時を経て、その端緒となった松山氏の元へと導かれたのだ。新宮さんの人生のターニングポイントを見ると、あたかも布石が打たれていたかのように、すべてに意味が感じられるのは気のせいだろうか。
世界の意味がどう構成されるのか
作品制作にあたり新宮さんは、自身が学生時代から強くひかれた美術史上のさまざまな時代、地域で描かれた絵画からモチーフを抜き出し、それらをなぞるという手法を取る。しかしオリジナルを再現するのではなく、対象を捉える自分の目線に沿って手を動かし、速度を上げて一気に描き上げるのだ。うまくトレースすることには意識を向けず、目と手の動きに集中する。そうすることで、モチーフそのものの意味をぼかすのだという。歴史的にも意味のあるものとして扱われてきた絵画作品を、いかようにも解釈できるものに作り替え、異なる一つのまとまりとして再構築するのだ。
しかし鑑賞者は一つのキャンバスに並べられたモチーフを関連付け、意味を見出そうとするという。これは人間の世の中の捉え方、ひいては世界の存在の仕方そのものだと新宮さんは話す。物事が初めから意味を持つのではなく、意味や価値は人間が後付けするものなのだと。
尽きることのない意味に取り組み続ける
そして作品は、情報が錯綜(さくそう)する現代社会への問題提起へとつながっていく。何者かに色付けされた情報が出回るこの世の中で、その真偽や出所を把握するのは困難である。新宮さんはそんな社会において、物事の元々の意味を熟考し主体的に理解しようとすることで、世界を切り開くことができるのではないかと考える。彼が影響を受けた哲学者のマルクス・ガブリエルは言う。「人生の意味とは、生きることに他ならない。つまり、尽きることのない意味に取り組み続けるということだ」と。
制作活動を通して今、生きている時代背景から後世に何が送り出せるかについて考えるという新宮さん。私たちが生きる世界の意味について、どんな新しい提案をしてくれるのか。今後の作品が楽しみで仕方ない。
新宮大史
Taishi Shingu
東京芸術大学デザイン科卒業。
有限会社カイカイキキを経て、有限会社金沢アトリエ・湘南美術学院で、教育部統括長、デザイン科統括として勤務。
現在ブルックリンにある、松山智一氏が運営するMATSUYAMA-STUDIOで絵画制作スタッフをしながら、作品制作に励む。
taishishingu.com
@taishishingu
展覧会開催のご案内
20日(木)〜2月13日(日)
3RD ETHOS Gallery
154 Knickerbocker Ave., Brooklyn, NY 11237
3rdethos.com