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15|Vol. 921|Friday, June 23, 2017 BUSINESS阪本が選ぶ読めば分かる この一冊発酵文化人類学 小倉ヒラク「本書は、発酵を通して 人類の文化を掘り下げ る、世にも珍しい『発酵 カルチャー本』。」(本文 から引用)木楽舎19135今週の教訓売るのではなく、話題になる阪本啓一■ブランディングコンサルタント。大阪大学 人間科学部卒業後、旭化成入社。2000年に独立し 渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。 06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役社 長。地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営 の実現に取り組む。『ブランド・ジーン~繁盛をもたら す遺伝子(』日経BP社)などの著書・訳書、講演活動 も多数。www.kei-sakamoto.jp 電子メディア開店!www.orange-media.jp10共 感 マ ー ケ ティン グらに呼び掛けたのです。「J OYWOWが新しい試み として、本を制作しまし た。買ってくれませんか?」 と。冊売れるという手応え十 分な結果になったのです。 購入された本は、これまた 私たち自ら包装し、宅配業 者経由でダイレクトに読者〝共感〞をキーワードに独自のマーケティング理論を 展開するブランディングコンサルタント・阪本啓一の「マーケティング力アップ講座」。第 回 コミュニティーに売る 制作は印刷会社を訪問 へ届けました。 したり、用紙を選んだりす コミュニティーに売る、と ることから全て自分たちで いうより、置くイメージ。寮 行いました。そして、20 で人の出入りの多い食堂の 09年春ごろからプロジェ テーブルに置いておく、そひたすら足で稼ぐが普及した今、「売る」は、 一日が終わり、帰宅して、 大きく様変わりしました。 それから本の該当部分を 開くと、JOYWOWの答 違うアプローチで売る えが掲載されているというクトが始まり、その間の動 きを逐一、コミュニティーに 流したのです。れを通りすがりのみんなが 手に取っていく、というよ うな。 私は会社員時代、 年間 営業をしました。月に1回 「ローラー」と言って、設計 事務所名簿と地図を頼り に、ひたすら訪問しまくりあんばいです。 「JOYWOW『あり方』 本とカードボックス。通 そこで「面白そう」「応援 するよ」という反応をもら って勇気づけられ、発売日 月1日には前夜祭みた いなことをメルマガとツイ JOYWOWは既にコ ミュニティーを作っていた。 だから一般の書店流通に乗 せることなく、本を売るこ とができました。売る前に、の教科書」は、2009年 ました。アポイントなしに、 に、私の会社JOYWOW常の書店ではどこに置いて いいか分からないでしょ う。それともう一つ、私たち は、実験をしてみたかった のです。つまり、通常の書店 で売ることをこれまでのマ ス・マーケティングとすれ ば、違うアプローチで売る ことができないか。ッターで流し、コミュニティ コミュニティーを作る。これ直接ピンポンして訪問しまで自主制作した本です。こ れは一般書店の流通には乗 らない装丁でした。本と一 緒にカードボックスがセッ トで付いているからです。す 。 今から思えばまったく迷惑な話で、設計事務所の先生方の都合を無視した土足営業でした。とはいえ、時代はおおらかな1980年代。大抵の先生たちは事務所のドアを開け、場合によってはお茶まで出して、 いてある課題を一日かけて商品説明に耳を傾けてく考えるというもの。課題は 例えば次のようなもので す。 当時まだフェイスブック は一般的ではなく、メール マガジンとツイッターを使 用していました。そんな状 況でしたが、JOYWOW コミュニティーは、クライア ント、受講生、イベント参加れたものです。 営業マンである私の目的「売る」とは、こういうこと を指しました。す」(これは「オバマカード」 者によってできていた。 と呼ばれ、読者に人気でし 正確な数字は分かりま しかし、SNSとスマホ た)せんが、およそ1000人 この本の使い方は、読者 がカードボックスの中から 毎朝1枚、カードをランダ ムに抜き取って、そこに書コミュニティーに発信は、設計図面に自分が売っ 「『ノーギャラで、オバマ ている建材を採用してもら 大統領を自分の会社のイベ うことです。いわゆる、足で ントに呼ぶにはどうすれば 稼ぐという方法。一昔前の いいか』。その秘策を書き出はいたでしょう。そこで、彼 結果、発売初日に200ーを盛り上げました。が新しい「売り方」です。 著者も「JOYWOWの あり、お世辞にも一般的な 教科書」と同じ手法でこの 本とは言えません。しかし、 本を売っています。自分のコ 軽い語り口に心地よく揺ら ミュニティーに呼び掛け、 れているうち、著者の言う「『好き』でつながっていくつ ように、「発酵の道は、人間 ながり」によって初版40 の道に通ず」という気になっ 00部を発売後わずか1週 てくるから不思議です。 間で重版。さらに売れ続け、 間違いなく、これから新 またさらに重版がかかって しいビジネスの種は、発酵 1万部達成、といった「コミ ものから生まれてくるでし ュニティーに届ける」手法で ょう。そう、発酵菌が人間を うまくいっています。 使って、そうせざるを得な 本の内容はディープな発 いようにしているに違いあ 酵菌、酵素、文化人類学で りません。

