レトロ作品 まったりレビュー

今週の1本 太陽を盗んだ男

映画監督・鈴木やすさんが、思い出の映画作品を、鑑賞当時の思い出を絡めてゆったり紹介します。


コロナの肺炎のために急逝した志村けんさんの代役でジュリーこと沢田研二さんが主演した山田洋次監督作品、『キネマの神様』を観た。若い頃の夢を実現できなくて酒と博打に溺れて家族や友人に迷惑をかけてばかりの「憎みきれないろくでなし」ダメおやじを元祖ビジュアル系のスーパースターアイドル、貴公子のような美形で60年代から芸能界のトップを走り続けたジュリーが演じる姿に心を打たれた。

70年代に子供だった僕は今でもジュリーが憧れのスーパースターなのだ。ジュリーが新曲を出して『夜のヒットスタジオ』で初披露した次の日は、学校でいち早くジュリーの真似をした。『サムライ』の時は学校にペーパーナイフを持ち込んで「片手に〜ピストル〜」と放課中に歌っていたら女子生徒にチクられてペーパーナイフを先生に取り上げられてキツく叱られた。黒いコートを羽織ってソフト帽子をかぶった旅のヤクザを演じる主演を僕が任された舞台では、楽屋で衣装を着てキャラクターに入り込んでいく大事な時間には毎日『LOVE―抱きしめたい』を口ずさみながらキャラクターに入り込んでいった。暗い過去を持つニヒルな男に堂々とUnapologeticになりきらなければ主演は務まらない。それもスーパースターのジュリーが教えてくれた。ネット上では美形のポップスターのイメージから歳を重ねた白髪のジュリーに対して「劣化が激しい」とか「コンサートをドタキャンするのはけしからん」とかやかましいことを言う奴が多い。「なにをぬかすか」である。

70歳を超えても整形だらけでプラスチックの仮面のようにちっとも変わらない男性アイドル歌手よりも、きちんと生き様をさらしてろくでなしダメおやじを演じるジュリーの方がよっぽどカッコいい。9000人の会場に7000人しか入らなくて「俺はやらん」と意地を張るスーパースターが一人ぐらいいなければ世の中ちっとも面白くない。

全部が全員、平均的なおとなしい人間ばかりの社会の中で誰に憧れて生きればいいのさ。中ぐらいが48人もゾロゾロいるアイドルグループと握手できる権利を餌にしてCDを売るような芸能界だから韓国に抜かれちゃうんだよ。ジュリーの話になると興奮してちっとも映画の話にならない。今回は僕が中学生の頃に夢中になったジュリー主演の映画です。

映画の熱い息吹

生き甲斐を失って無気力な中学の理科教師、城戸誠が犯罪に巻き込まれたことをきっかけに山下刑事と出会い原子爆弾を自分で作ることを思いつく。東海村の原子力発電所から液体プルトニウムを強奪し、ついに彼は手作りで原子爆弾を作ってしまう。

誠は山下刑事を指名して警察と政府を脅し始めるが、金が目的でも政治的な主張もない誠はなにをしていいのかわからず、ナイター野球中継を延長させろとか、ローリング・ストーンズを来日させろとか難題をふっかけて警察を翻弄する。当時の日本映画にはなかった、きわどくてスケールの大きいストーリーと派手なカーアクションに僕は夢中になった。撮影ロケも国会議事堂や皇居前、首都高速などで許可無しのゲリラ撮影を繰り返して、スタッフは逮捕されて留置場に入れられることを見越して歯ブラシや着替えを持ち込んでいたという。助監督には若い頃の相米慎二さんや黒沢清さんがいて今でも語り継がれている日本映画伝説の撮影現場であったそうだ。映画人がそんな不良ばかりだった時代の熱い息吹がスクリーンからグッと伝わってくる映画なのだ。

 

今週の1本

太陽を盗んだ男

公開:1979年
監督:長谷川和彦
音楽:井上堯之
出演:沢田研二、菅原文太
配信:DVD

中学の理科教師、城戸誠は仕事に生き甲斐を失う中で原子爆弾を自分で作ることを思いつく。

(予告はこちらから)

 

鈴木やす

映画監督、俳優。1991年来米。ダンサーとして活動後、「ニューヨーク・ジャパン・シネフェスト」設立。短編映画「Radius Squared Times Heart」(2009年)で、マンハッタン映画祭の最優秀コメディー短編賞を受賞。短編映画「The Apologizers」(19年)は、クイーンズ国際映画祭の最優秀短編脚本賞を受賞。俳優としての出演作に、ドラマ「Daredevil」(15〜18年)、「The Blacklist」(13年〜)、映画「プッチーニ・フォー・ビギナーズ」(08年)など。現在は初の長編監督作品「The Apologizers」に向けて準備中。facebook.com/theapologizers

 

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