レトロ作品 まったりレビュー

今週の1本 Event Horizon(邦題:イベント・ホライゾン)

映画監督・鈴木やすさんが、思い出の映画作品を、鑑賞当時の思い出を絡めてゆったり紹介します。


大学時代、中古車を買った僕は嬉しくて友達と連れ添ってドライブしまくった。そして肝試しに 夜中のドライブによく行ったのが、愛知県人なら誰でも知っている心霊スポット、名古屋から車で約一時間半ほどの豊田市の山深い林道の中にある「旧伊勢神ト ンネル」だ。1897年に建造された車一台がやっと 通過できる狭いトンネルはすぐ下にトラックも通れる新トンネルが1960年に開通してからは誰も使わなくなり、昼でも薄暗い山の中に忽然と姿を現す苔むした石造りのトンネルには照明も一切付いていなくて一歩足を踏み入れると漆黒の深い闇に吸い込まれていくようで本当に怖かった。若者はなぜあんなに怖いものが好きなのだろう。ホラー映画が変わらぬ人気であるのも頷ける。

今回はSFホラー映画 のジャンルで根強いファンの多い作品である。公開時は大ヒットした「タイタニ ック」と同時期の公開と運が悪く、 60ミリオンの製作費を投入して 42 ミリオンしか稼げなくて興行的な失敗作に終わったが、後のDVD販売で徐々に火がつ き、今でもカルト的な人気を誇っている。

映画の舞台は2047年。人類初の太陽系の外側への探査の途中で7年前に音信不通になってしまった探査船、イベント・ホライゾン号が突如、海王星の衛星軌道上に再び現れた。微かに届いた最後の音信は乗組員の「助けてくれ」というラテン語の言葉だった。その調査と救出の目的で救助艇、ルイス&クラーク号がミラー船長をリーダーに出動要請を受けた。救助艇に同乗したイベント・ホライゾンを設計したウェアー博士の説明によるとその船には人類初の重力駆動装置、「コア」が搭載されているという。

イベント・ホライゾンにたどり着いた乗組員が船内で見たものは、むごたらしい乗組員の死体の数々と目を背けたくなるような乗組員同士での拷問、レイプに惨殺の様子が残された船内映像記録だった。一体この船と乗組員になにが起こったのか。そしてコアを再起動して調査を続けるルイス&クラークの乗組員は徐々に幻覚を見はじめるようになる。人工的に時空を折り曲げて重力を生み出すコアはいったいなにを開けてしまったのか。そしてウェアー博士は徐々にコアに取り憑かれたようになっていく。

心霊話し

 

この映画は本当に怖かった。閉鎖された宇宙船の中で得体の知れないものが暗闇から襲ってくる「エイリアン」も怖かったけれど、この映画で乗組員を襲いはじめるのは自分の中にある暗い過去に隠された心の闇と凶暴性である。

映画を観た後、数日間はドーンと暗く重いものがのしかかったような気持ちになったのを憶えている。人が恐怖を感じている時はエンドルフィンやアドレナリンといったホルモンが分泌されて、それを乗り越えた時、満足ホルモン、ドーパミンが多く分泌されるという。ホラー映画を見て恐怖に慄き、それを観終わって安心を感じる時、人はさらなる幸せを感じるということらしい。しかし、心霊話しやオカルトなどは、あまり深入りした人が増えすぎると社会に悪影響を及ぼすこともある。

日本では高齢者がアパートを借りようとすると説明もなく断られることが増えてきているそうだ。その部屋で孤独死でもされると事故物件として不動産価値が下がるのを恐れているらしい。そんな心霊話しを実際の社会活動に持ち込まれては生きているのに浮かばれない。ホラー映画を見てスッキリして、社会活動はちゃんと別でやって欲しいよね。

今週の1本

Event Horizon

(邦題:イベント・ホライゾン)

公開:1997年
監督:ポール・W・S・アンダーソン
音楽:マイケル・ケイメン
出演:ローレンス・フィッシュバーン、サム・ニール
配信:Hulu、Apple Tv、Google Play 他

7年前に消息不明になった探査船イベント・ホライゾンの救出に救助艇ルイス&クラークが出動する。

(予告はこちらから)

 

鈴木やす

映画監督、俳優。1991年来米。ダンサーとして活動後、「ニューヨーク・ジャパン・シネフェスト」設立。短編映画「Radius Squared Times Heart」(2009年)で、マンハッタン映画祭の最優秀コメディー短編賞を受賞。短編映画「The Apologizers」(19年)は、クイーンズ国際映画祭の最優秀短編脚本賞を受賞。俳優としての出演作に、ドラマ「Daredevil」(15〜18年)、「The Blacklist」(13年〜)、映画「プッチーニ・フォー・ビギナーズ」(08年)など。現在は初の長編監督作品「The Apologizers」に向けて準備中。facebook.com/theapologizers

 

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