レトロ作品 まったりレビュー

今週の1本 Stigmata(邦題:スティグマータ 聖痕)

映画監督・鈴木やすさんが、思い出の映画作品を、鑑賞当時の思い出を絡めてゆったり紹介します。


十月である。今年も米国のお化けのシーズンがやってきた。ハロウィーンに合わせてこの時期から巷はホラー映画で溢れてくる。今回と次回続けて今まで印象に残ったホラー、スリラー映画を紹介します。 今回の映画はものすごく怖 かったというよりも、見終わった後にずいぶんと深く考えさせられた。全米ツアーの最中に地方の映画館 で見たが、一緒に見にいったツアーのルームメイトとこの映画について、神の存在、 宗教の在り方について明け方になるまで深く話し合った記憶がある。

ピッツバーグでヘアドレッサーとして働くフランキー はある夜突然、両手首を貫通する謎の傷が現れて救急病院に担ぎ込まれる。自殺未遂を疑う医師にフランキーは身に覚えがないとこれを頑なに否定する。

数日後、地下鉄の中でいきなり背中を何度もムチで打たれたような傷が彼女の背中に現れて車内は騒然となる。それを目撃したカトリック教会のダーニング神父はイエス・キリストの磔刑の際の傷が敬虔な 信者たちに現れる現象、スティグマータ(聖痕)ではないかと疑い、その際の防犯ビデオ映像をバチカンのカトリック教会総本山に送って調査を依頼する。そして奇跡現象を科学的に調査する科学者で神父でもあるアンドリュー神父がピッツバーグに送られた。

フランキーに話を聞いた 神父は彼女が無神論者であることに驚いてスティグ マータの可能性を否定した。スティグマータは敬虔な信者にしか現れることがないからだ。しかしフラ ンキーにまたしてもイバラのかんむりをかけたかのように頭から血が流れ出す。 駆けつけたアンドリュー神父の目前でフランキーは取り憑かれたように古代文 字で何かを書きつけて、彼に向かって古代アラム語で叫び始める。その文字の写真と録音したフランキーの叫びを総本山の同じ調査部署で言語学者の友人、デ ルモニコ神父に送って翻訳を依頼すると、デルモニコ神父はひどく慌てた様子で、総本山には決してこの資料を送ってくるなと忠告して、全ての証拠を抹消し始める。それに気づいた枢 機卿ハウスマンはその事例の全ての証拠隠滅を密かに画策し始める。果たしてフ ランキーのスティグマータは本物なのか?

なぜカトリック総本山はそれを頑なに隠滅しようとするのか?

Secular Humanism

多民族社会ニューヨークではスポーツと宗教の話題は避けるべしと言われている。それでもごくたまに話がその方向に流れて「あなたは信仰を持っているの?」と聞かれることがある。そんな時は、Secular Humanism(無宗教の人道主義)ですと答えることにしている。このセキュラーという考え方は民主主義社会ではとても大切なものになる。特に当時のヨーロッパの宗教的迫害から逃れた人たちで作った米国では社会の基本中の基本であるべきことである。

専制主義国家では特定の宗教しか信仰してはならんとか、全ての宗教を信仰してはならんと体制から強いられる。政教分離の原則は全ての人に信仰の自由を与えて、政治に特定の宗教の教義を反映させてはならないという考え方だ。その大切な原則が今世界中で揺らいでいる。米国では明らかにキリスト教の教義に基づいて妊娠中絶が禁止された州が出てきている。日本でも政治と宗教団体との癒着が明らかになり、この政教分離がいかに大切か思い知らされている。知性を育む秋の季節に皆様もこの映画を通して、精神的理念について、宗教と社会について、深い哲学的考察を巡らせてみてはいかがでしょう。

今週の1本

Stigmata

(邦題:スティグマータ 聖痕)

公開:1999年
監督:ルパート・ウェインライト
音楽:ビリー・コーガン
出演:パトリシア・アークエット、ガブリエル・バーン
配信:YouTube 、Amazon Prime他

ヘアドレッサーのフランキーの身体にある日、イエス・キリストの磔刑の際にできた傷と同じ傷が次々と現れる。

(予告はこちらから)

 

鈴木やす

映画監督、俳優。1991年来米。ダンサーとして活動後、「ニューヨーク・ジャパン・シネフェスト」設立。短編映画「Radius Squared Times Heart」(2009年)で、マンハッタン映画祭の最優秀コメディー短編賞を受賞。短編映画「The Apologizers」(19年)は、クイーンズ国際映画祭の最優秀短編脚本賞を受賞。俳優としての出演作に、ドラマ「Daredevil」(15〜18年)、「The Blacklist」(13年〜)、映画「プッチーニ・フォー・ビギナーズ」(08年)など。現在は初の長編監督作品「The Apologizers」に向けて準備中。facebook.com/theapologizers

 

あなたの思い出の映画はなんですか?

レビューの感想や、紹介してほしい作品などの情報をお待ちしています。
editor@nyjapion.comまでお寄せください。

関連記事

NYジャピオン 最新号

Vol. 1247

我らのドジャース

大谷翔平選手の一挙手一投足から目が離せない。スポーツ報道でLAドジャースの名前を見ない日はない。5月1日現在の勝率・621でナ・リーグ西部地区トップ。そのドジャースが、5月末には対NYメッツとの3連戦、6月には対NYヤンキースとの交流戦で当地にやって来る。NYジャピオン読者としては憎き敵軍なるも大谷選手の活躍に胸が熱くなる複雑な心境。だが、LAドジャースの「旧姓」はブルックリン。昔はニューヨークのチームだったのだ。

Vol. 1246

人気沸ピックルボールを楽しもう

あちこちに花も咲き乱れ、4月に入りニューヨークにも春が到来した。本号ではこれからの季節、屋外でも楽しめるピックルボールを紹介する。テニスよりも狭いスペースで出来るピックルボールはここ数年、ニューヨークでも人気だ。

Vol. 1245

春到来! 週末のプチお出かけ 〜ハドソン川流域・キャッツキル山麓編〜

桜の花も満開を迎え春の行楽シーズンがやって来た。ニューヨーク市内から日帰りできるハドソン川流域・キャッツキル山麓の人気のスポットを紹介しよう。

Vol. 1244

オーェックしよ

コロナ禍で飲食店の入れ替わりが激しかったニューヨーク。パン屋においても新店が続々とオープンしている最近、こだわりのサワードウ生地のパンや個性的なクロワッサン、日本スタイルのサンドイッチなどが話題だ。今号では、2022年から今年にかけてオープンした注目のベーカリーを一挙紹介。