レトロ作品 まったりレビュー

今週の1本 Norma Rae(邦題:ノーマ・レイ)

映画監督・鈴木やすさんが、思い出の映画作品を、鑑賞当時の思い出を絡めてゆったり紹介します。


話題のニュースでご存知の読者も多いと思うが、僕自身も所属する全米映画俳優組合、SAG─AFTRAが今年の5月に先んじてストライキを敢行したWGA、全米脚本家組合に続いてストライキに突入した。米国の芸能界の二つの主要な労働組合が同時にストライキに入るのは1960年以来のことである。

ストライキに至った背景には、テクノロジーの進化とメディア配信の劇的な変化がある。以前は劇場公開映画が制作上映されると、数カ月後には海外で上映され、DVDが発売され、茶の間のテレビで放映された。そしてスタジオと契約を交わして出演した俳優には別のメディア放映の度にその収益の一部が配分される仕組みがあった。その収益配分のルールも映画スタジオ、大手メディア会社側と幾度となく闘ってきた労働組合によってその権利が勝ち取られた。しかし、ご存知のようにここ数年、映画、テレビ番組の見方はストリーミング・サービスによって劇的に変化し、その公平な収益配分システムが機能しなくなってきた。さらに深刻な問題は人工知能AIの急速な進化によって、俳優のイメージの複製が可能になってきたことにある。特にエキストラの俳優たちを一度撮影して、そのイメージを映画スタジオが人工知能によって自由に複製して俳優には無報酬でその肖像権を所有することを許せば、立場の弱い組合員の多くの仕事が激減してしまうことは容易に想像できる。このコラムでも人工知能の問題を取り上げてきたが、この問題はどの業界で働いていても対岸の火事ではない。

実際、僕の働くエンタメ業界にこんなにも早くこの問題が押し寄せてくるとは正直思っていなかった。これを読んでいるあなたの働く業界にも時期にやって来る問題なので、このストライキのニュースを喫緊の社会問題として注意深く見守る必要がある。今回は米国南部で1970年代に実際に起きた紡績業界の労働争議を描いた映画を紹介したい。

ソリダリティー

南部ノース・キャロライナ州のシングルマザー、ノーマ・レイの住む小さな町には仕事と言えば大きな紡績工場一つだけだ。家族も友人もこの工場でしか働く機会がない。会社側はその有利な立場をいいことに従業員を劣悪な環境と不公平に少ない給料で酷使していた。そんな時、ニューヨークから全米繊維産業労働組合のルーベン・ワショフスキーがこの会社の調査のために町にやってくる。ルーベンの従業員たちへの力強い説得にも関わらず、唯一の仕事を失うことを恐れて従業員たちは彼の努力を疎ましく感じていた。しかしノーマはそんなルーベンの姿に少しずつ勇気を与えられ、会社側の度重なる卑怯な妨害にも負けずに組合への参入を少しずつ家族や友人たちに説き伏せていき、やがて大きな波となって従業員たちはより人間らしい生き方を求めて会社側と闘い始める。日本の代表制民主主義は一票の格差や宗教団体、経済団体との癒着など様々な問題を抱えてはいるが、ちゃんと機能はしている方だと僕は思う。多くの日本の若い世代は「政治に文句を言うのはろくなことがない」と言う教えを刷り込まれているようにも見える。しかし、選挙に行かないという選択は「どれだけ自分の生活が悪くなろうと私はあなたに羊のように従います」という強い政治的な表明をしているも同然だ。前回の衆議院選挙でもあと少し風が吹けば何かが変わったかもしれないところまで拮抗していたのに気づいていない。本当にあと少しだったんだよ。

今週の1本

Norma Rae(邦題:ノーマ・レイ)

公開: 1979年
監督: マーティン・リット
音楽: デイヴィッド・シャイア
出演:トサリー・フィールド、ロン・リーブマン

配信: Hulu、Amazon Prime他

南部の小さな町の紡績工場で働くノーマは会社の従業員への酷使に対抗し労働組合への参入に立ち上がる。

(予告はこちらから)

 

 

鈴木やす

映画監督、俳優。
1991年来米。ダンサーとして活動後、「ニューヨーク・ジャパン・シネフェスト」設立。
短編映画「Radius Squared Times Heart」(2009年)で、マンハッタン映画祭の最優秀コメディー短編賞を受賞。
短編映画「The Apologizers」(19年)は、クイーンズ国際映画祭の最優秀短編脚本賞を受賞。
俳優としての出演作に、ドラマ「Daredevil」(15〜18年)、「The Blacklist」(13年〜)、映画「プッチーニ・フォー・ビギナーズ」(08年)など。
現在は初の長編監督作品「The Apologizers」に向けて準備中。
facebook.com/theapologizers

 

 

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