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映画監督・鈴木やすさんが、思い出の映画作品を、鑑賞当時の思い出を絡めてゆったり紹介します。
明日で元号が平成から令和に変わるという2019年4月30日、僕たち家族は里帰りで日本にいて長野の山荘に滞在していた。日本のテレビは平成を振り返る特別番組ばかりで、平成の天皇皇后両陛下の資料映像も繰り返し流されていた。それをみていた当時まだ小学生だった娘が「この人は誰?」と聞いてきた。「この人は日本のエンペラーだよ」と答えると実に可愛らしい質問をさらにしてきた。「Is he nice?」あなたなら小さな子供に「日本のエンペラーってナイスな人?」と聞かれたらどう答えますか? 本当に子供の質問というのは率直で素直で可愛らしい。これだから子育てって面白い。そういう率直な質問をされた時にどう答えるべきか、どう答えたら事実を伝えながらこの子の成長に良い影響を与えられるのか、常に考えながら一緒に生きていくのは難しいけれどやりがいがあると思いませんか? 「お父さんは彼に一度も会ったことがないから分からないけれども、テレビで見るといつもすごく礼儀正しいから、会ってみるときっとナイスな人なんじゃないかと思うよ」と僕は答えました。娘もとても納得した様子でした。今回は今なにかと話題のイギリス王室を舞台にしたコメディー映画を紹介します。
開かれた王室
ある雨上がりの午後、バッキンガム宮殿の中庭でイギリス王室家族親類全員が参加しての写真撮影が行われていた。濡れた芝生の上でフラッシュをたくと、なんとイギリス王室全てのメンバーが感電死してしまうというぶっ飛んだシーンからこの映画は始まる。
王室関係者による残されたイギリス王室血縁者を探し出す必死の探索が始まり、ついにラスベガスでラウンジ・シンガーをしているラルフ・ジョーンズに行き着いた。ラルフの祖母がホテルのメイドをしていたその昔、アメリカを訪問していた当時のイギリス公爵と一夜を過ごした末のその孫がラルフであるというのだ。祖母から受け継いだ王室紋章のついた指輪をそれとは知らずにいつも身につけていたラルフ本人も驚いた。イギリスに行ったことはあるかと聞かれラルフは答える、「No、でもローリングストーンズのレコードは全部持ってるよ」。ロンドンに到着したラルフを待っていたのはセドリック卿による厳しいトレーニングの日々であった。しかしそこは生粋のアメリカ人、なかなか王室のマナーが身につかない上にお忍びで出かけた夜にストリッパーのミランダにひと目惚れしてしまう。果たしてセドリック卿はラルフをイギリスの王として相応しい人間に教育できるのか? イギリスの民衆はアメリカ人のラルフを王として受け入れられるのか? チャールズ新国王の戴冠式や昨今の王室家族の話題に関するニュースを見ていて「開かれた王室」を目指したイギリスの大胆な決意を感じずにはいられない。不倫に離婚に家族の不仲と誤解を恐れずに言うととても人間味を感じてしまう。
日本の皇室も開かれるべきだとは言わないが、日本国民すべてに憲法で保障されているはずの表現の自由、職業選択の自由、結婚の自由、幸福を追求する自由に参政権も与えないなんて日本国民は皇室家族を束縛していないか? イギリス王室といえば加熱しすぎたメディアとのカーチェイスの末に無惨にも事故死したダイアナ妃の悲劇も記憶に新しい。一般市民として静かに生活しようとしている小室眞子さんのアパートを探り出して騒ぎ立てる様な真似だけは日本人としてニューヨーカーとして決してして欲しくない。
今週の1本
King Ralph
(邦題: ラルフ一世はアメリカン)
公開: 1991年
監督: デイヴィッド・S・ウォード
音楽: ジェームズ・ニュートン・ハワード
出演: ジョン・グッドマン、ピーター・オトゥール
配信: Google Play、Apple TV、Redbox 他
生粋のアメリカ人でラスベガスのラウンジシンガー、ラルフは運命のいたずらでイギリスの国王にならなければいけなくなる。
鈴木やす
映画監督、俳優。
1991年来米。ダンサーとして活動後、「ニューヨーク・ジャパン・シネフェスト」設立。
短編映画「Radius Squared Times Heart」(2009年)で、マンハッタン映画祭の最優秀コメディー短編賞を受賞。
短編映画「The Apologizers」(19年)は、クイーンズ国際映画祭の最優秀短編脚本賞を受賞。
俳優としての出演作に、ドラマ「Daredevil」(15〜18年)、「The Blacklist」(13年〜)、映画「プッチーニ・フォー・ビギナーズ」(08年)など。
現在は初の長編監督作品「The Apologizers」に向けて準備中。
facebook.com/theapologizers
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