レトロ作品 まったりレビュー

今週の1本 Pierrot Le Fou

映画監督・鈴木やすさんが、思い出の映画作品を、鑑賞当時の思い出を絡めてゆったり紹介します。


小学校から娘におしゃれをきちんと教えてきた。服の色や柄の合わせ方、素材の見立て、小物や古着の着こなし、美術館や劇場に連れて行き美しいものにたくさん出会わせ、現代美術でルールを破る楽しさにも触れさせる。感性の豊かな大切な時期にちゃんとおしゃれを教えて自由を与えれば、自信の持てる自分の感覚と美意識と感性、哲学を育むことができ、周りのみんなが着ているからと自分に似合いもしない高級ブランドに振り回される事もなく、しっかりと自分の感性でものを選び、自分の考えで仕事や生き方を選んでいける手助けができると思っている。

僕が彼女の年頃には愛知県の悪名高い管理教育のもとでくだらない校則を押し付けられていた。髪の長さは…学生らしさとは…スカートの丈の長さは…なぜあんな無駄なエネルギーを浪費して人生で一番おしゃれをしたい時期の若者を大時代で古くさい規則で縛りつける必要があったのか? しかし、日本ではそんなくだらない規則を押し付けられた僕たちの世代の人間が管理側になりいまだに若い世代に同じ様なくだらない規則を教育現場で押し付けている。

古くなった規則や社会常識への服従を拒否して声を上げて行動した先人達のおかげで社会は少しずつ前に進んできた。

岸田首相は同性婚の制度化に「社会が変わってしまう」と国会で言及したが、それは首相が「社会を変える気がない」ということだ。思考を停止し、感覚を麻痺させて、羊のように群れについていき、腹いせに目立つ人間をネットで集団で叩くだけでは少しも前に進めないし次の世代に何も残せない。自分の感性と良識に自信を持って声を上げて表現する。それを教えてくれるのが芸術であり僕はそれを映画から教わった。

今回は古くなった時代に風穴を開けたフランスの芸術の波、ヌーベルバーグの傑作を紹介する。

ゴダールに叱られる

わかりやすいストーリーを映画スターを主演にスタジオで撮影するというそれまでのハリウッド映画に対しPourquoi ? (なぜ?)と疑問を投げかけ、カメラを外に出し自然光の中で無名の俳優達の即興を中心に撮影した一連のヌーベルバーグ映画はハリウッド映画に飽き飽きしていた当時の若者に熱狂的に支持されて、アメリカではその後アメリカン・ニューシネマの波がおこり、日本でも大島渚や吉田喜重の作風に影響を与えた。

僕は学生時代にヌーベルバーグの映画を名画座に通い詰めて訳も分からずに見続けた。少しでもヌーベルバーグを理解しようと必死だった。今回この映画を40年ぶりに見直してようやく若かった僕がヌーベルバーグを見続けた意味が理解できた。監督達と波長が合ったのだ。がんじがらめの管理と規則の閉塞感の中でもがいていた僕は、芸術と社会に風穴を開けようと必死だった監督達に共感していたのだ。この映画にストーリーの理解を求めてはいけない。

金持ちのイタリア人妻との結婚生活に行き詰まりを感じていた男がかつての恋人と逃避行をする様が、アメリカンコミックのような原色のカリカチュアと散文詩的なセリフの連続で描かれている。王道の芸術を笑い飛ばし、べトナム戦争への痛烈な批判を繰り広げる。まるでイタリアのスポーツカーを猛スピードで運転しているようなドライブ感が見ているうちに沸き起こる。世間や政治家を頼るな。閉塞した社会は自分の力でぶち破れ。ゴダール監督に久しぶりに叱られたような気がして嬉しかった。ぜひ若い人たちに見てほしい作品だ。

 

 

 

今週の1本

Pierrot Le Fou
(邦題: 気狂いピエロ)

公開: 1965年
監督: ジャン=リュック・ゴダール
音楽: アントワーヌ・デュアメル
出演: ジャン=ポール・ベルモンド、アンナ・カリーナ
配信: YouTube、AppleTV、VUDU他

金持ちのイタリア人妻との結婚生活に行き詰まっていたフェルディナンはかつての恋人マリアンヌと再び出会い彼女と逃避行の旅に出る。

 

 

鈴木やす

映画監督、俳優。
1991年来米。ダンサーとして活動後、「ニューヨーク・ジャパン・シネフェスト」設立。
短編映画「Radius Squared Times Heart」(2009年)で、マンハッタン映画祭の最優秀コメディー短編賞を受賞。
短編映画「The Apologizers」(19年)は、クイーンズ国際映画祭の最優秀短編脚本賞を受賞。
俳優としての出演作に、ドラマ「Daredevil」(15〜18年)、「The Blacklist」(13年〜)、映画「プッチーニ・フォー・ビギナーズ」(08年)など。
現在は初の長編監督作品「The Apologizers」に向けて準備中。
facebook.com/theapologizers

 

 

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