レトロ作品 まったりレビュー

今週の1本 Marathon Man

映画監督・鈴木やすさんが、思い出の映画作品を、鑑賞当時の思い出を絡めてゆったり紹介します。


30代の半ばからジョギングを始め、今ではいっぱしのランナーになった。球技やチームスポーツにどうしても興味が持てないので一人で継続してできる運動を見つけられて嬉しい。身体に負担のかかる有酸素運動中は脳内でβエンドルフィンというホルモンが分泌されていて、早い話が麻薬中毒のような状態になっていると言われているが、これはわかる。今朝も雪が降る氷点下の中を走った。足腰に痛みを感じていてもコンクリートよりも柔らかい近所の陸上トラックで走り続け、それでも怪我をして走れない時はプールで30分泳ぎ続ける。運動しないという選択肢はない。地方で仕事がある時はかさばっても必ずランニングシューズを持っていく。知らない土地で朝早く走るのは刺激が強くてつい長めに走ってしまい、仕事仲間が二日酔いの頭を抱えてもそもそと朝食のテーブルに着く頃に僕はホテルの周りの観光名所をすでに全部巡っていて驚かれたりする。

夏と冬の帰省時には妻の実家があるイリノイ州のどこまでも続くとうもろこし畑の一本道を地平線に顔を出したばかりの朝日に向かって走る。なんだかフォレスト・ガンプみたいだ。日本に帰国した時は名古屋の街が見渡せる高台の公園まで走り、実家の近所の神社で家族の安全を祈り、スーパーで買い物して帰るのが毎朝の日課だった。時差ボケも無理矢理これで治してしまう。仕事場がアッパーイーストにもあるので春と秋の一番いい季節にはセントラル・パークの貯水池のコースを走る。春にはヤマザクラやソメイヨシノ、ツツジが咲き乱れ、秋にはメイプル、ヒッコリーやイチョウの紅葉で彩られた下を走る。距離は一周約1・5マイル、二周して程よく3マイルとちょうどいい。このジャクリーン・ケネディー・オナシスの名前を冠した貯水池は今回紹介する映画の重要な舞台となる。

残虐な時代

ランニングが趣味のコロンビア大学院生ベイブはスイスからの留学生エルザに恋をする。ベイブの兄で実業家のドクは久しぶりに弟のもとを訪ねエルザと3人で夕食を共にするが、エルザがスイス人ではないことを見抜き、ベイブに近づくなと警告しベイブは兄に激怒する。その夜、ドクは瀕死の刺し傷を負いながらベイブのアパートに現れて、弟の腕の中で息絶えてしまう。捜査の過程で政府関係者を名乗るジェインウェイが現れて、ドクが実はアメリカ政府の秘密諜報員であり、第二次大戦後、南米に隠れていたナチスドイツの元党員で「白い天使」のあだ名を持つ残虐な戦争犯罪人ゼルとユダヤ人から盗んだとされるダイアモンドをめぐる取引をしていたと明かす。

そしてベイブのアパートにもゼルの手下が押し入り、ベイブは誘拐されてしまう。歯医者の資格も持つゼルは兄が死の直前に明かしたであろう情報を教えろとベイブの歯にドリルを差し込んで拷問を加える。果たしてベイブの行く末は…。英国の大名優、ローレンス・オリヴィエが氷のような残虐さを演じて観客を震え上がらせた。

非人道的なナチスの残虐さを描いた映画は多いが、日本では最近、成田悠輔氏が「高齢者は集団自決したほうがいい」という趣旨の発言をして問題になっている。こういう発言をする人は過去にもいたが現代はネットで若い世代に与える影響が大きい。そんな残虐な時代に逆戻りしては絶対にいけないのだという声を少しでも大きくしていくしかないだろう。

 

 

 

 

今週の1本

Marathon Man
(邦題: マラソンマン)

公開: 1976年
監督: ジョン・シュレシンジャー
音楽: マイケル・スモール
出演: ダスティン・ホフマン、ローレンス・オリヴィエ、ロイ・シャイダー
配信: SHOWTIME、Paramount Plus

大学院生でランナーのベイブのもとへ実業家の兄が訪れるが、兄は何者かに殺されてしまう。ベイブは兄の真相を知り戦争の負の遺産の秘密に巻き込まれる。

 

 

鈴木やす

映画監督、俳優。
1991年来米。ダンサーとして活動後、「ニューヨーク・ジャパン・シネフェスト」設立。
短編映画「Radius Squared Times Heart」(2009年)で、マンハッタン映画祭の最優秀コメディー短編賞を受賞。
短編映画「The Apologizers」(19年)は、クイーンズ国際映画祭の最優秀短編脚本賞を受賞。
俳優としての出演作に、ドラマ「Daredevil」(15〜18年)、「The Blacklist」(13年〜)、映画「プッチーニ・フォー・ビギナーズ」(08年)など。
現在は初の長編監督作品「The Apologizers」に向けて準備中。
facebook.com/theapologizers

 

 

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