インタビュー

<独占インタビュー>日本を代表する女優・中谷美紀さん主演の 「猟銃」が7年ぶりにニューヨークで上演決定

女優・中谷美紀さん

アカデミー賞受賞歴を持つ映画監督であり、メトロポリタン・オペラをも手掛ける演出家のフランソワ・ジラールが、文豪・井上靖の小説『猟銃』を、中谷美紀さんを起用し完全舞台化。2011年にカナダ・モントリオールの舞台でスタートし、その後日本で上演、国内外問わず演劇界から高い評価を得た。7年の時を経て相手役に伝説のバレエダンサー、ミハイル・バリシニコフを起用し、ニューヨークへやってくる。今回は特別に中谷美紀さんに再演の想いや心境を聞いた。


7年振りの再演となりますが、決定された時はどんな心境でしたか。

7年前にこの舞台が終了した時は、心身共に消耗する役柄で、本作にまた挑むのは体力的に厳しく、もう演じることはないだろうと思っていました。しかし昨年、ドラマの撮影中に同作のプロデューサーである毛利さんから、ミハイル・バリシニコフさん(以下:バリシニコフさん)が相手役の三杉穣介を演じることが決定した状態でオファーをいただきました。まさか、あのバリシニコフさんと、ニューヨークで一緒に舞台に立てるなんて夢にも思いませんでしたので、その時は思わずその場で「イエス」と答えました。

しかし、よくよく考えてみますと、喉の管理、体調管理の心配や、コロナ禍も収束へ向かっているとはいえ、ウィルスが完全に消えたわけではありません。舞台上で台詞を言うのは私一人なので、万が一私に何かあった場合に代役をお願いできる方がおりませんし、プロダクション全てが台無しになってしまうのではという重圧に、不安な気持ちになりました。

フランソワ・ジラールさんと再びお仕事されることについてはいかがですか。

彼は私にとって演劇界の父です。2011年、カナダのモントリオールで、この「猟銃」の初舞台を踏んでいなかったら、舞台に立つことは生涯なかったと思います。演劇の醍醐味というものを教えてくださった初めての演出家になります。どんなに困難な状況でも不可能を可能にしてしまう、とてもポジティブな方です。

2月26日からメトロポリタン・オペラで彼が演出した「Lohengrin」が開演されました。

オペラの演出家として何百人ものスタッフやオペラ歌手、合唱部など大人数を動かすことに長けていらっしゃる方です。シルク・ドゥ・ソレイユの演出にも何度も携わっており、大きなプロダクションを動かすカリスマ性があります。そんな方があえて極小のミニマルなプロダクションを選び、ご自身で「猟銃」を演出したいと思われて、2007年にオファーをいただきました。初演に至るまでの5年間、同作をなんとしても上演するんだと諦めず、実現させる情熱をもっている。そんな彼と再び一緒に仕事ができることをとても嬉しく思います。

7年振りに、3人の女性を演じることに何か心境の変化はありますか。

三人三様の人格をもっていますが、初演からこれまで、娘の薔子(しょうこ)を演じる際に「若く、若く…」と考え、イノセントな少女という印象を抱いていたのですが、改めて本を深く読み込み、自分自身の経験も重ねてみて、彼女は二十歳の女性なのであって、彼女にも人格があり、意思があるはずですから、一人の女性として扱うようになりました。それは私自身の中で大きな変化でした。

同作品の見どころを教えて下さい。

3人の女性を、舞台裏にはけることなく演じます。3人目の彩子という女性が、鏡を見ることなく一人で着物を着るシーンがありますが、欧米の方はもちろん、着物をお召しになる方でも驚くような、衝撃的な着付けをします。とてもセンセーショナルな瞬間だと思います。そして、是非、井上靖さんの美しい日本語に触れていただきたいです。

ニューヨークで何か興味のあることは。

美術館が大好きで、とりわけ現代美術に目がなく、いつもならグッゲンハイム美術館やホイットニー美術館を訪れます。普段はオーストリアに住んでおりますので、ノイエ・ギャラリーにも足を運び、久しぶりにニューヨークのクリムトを拝見したい気持ちもありますが、今回は「猟銃」という大きな舞台を背負っておりますので、難しいかもしれません…(笑)。身も心も全て演劇に捧げております。修行僧のような心構えで挑まないと…という心境です。

 

中谷美紀(なかたに・みき)

1976年生まれ。
東京都出身。
93年俳優デビュー。
映画「嫌われ松子の一生」で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞受賞。
2011年に舞台「猟銃」で紀伊國屋演劇賞個人賞、読売演劇大賞優秀女優賞受賞。
3月16日~4月15日、「猟銃」の米ニューヨーク公演(バリシニコフ・アーツ・センター)に出演予定。
インスタグラム@mikinakatanioffiziell

「THE HUNTING GUN (猟銃)」
3月16日(木)~4月15日(土)
バリシニコフ・アーツ・センター
www.thehuntinggun.org
文豪・井上靖の短編小説 「猟銃」を完全舞台化。三杉穣介というある男の13年間にわたる不倫の恋が、妻、愛人、愛人の娘からの3通の手紙により暴かれていく。中谷は、この3人の女性を1人で演じる。

 

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