レトロ作品 まったりレビュー

今週の1本 The Out of Towners

映画監督・鈴木やすさんが、思い出の映画作品を、鑑賞当時の思い出を絡めてゆったり紹介します。


私事で申し訳ないが…まあこのエッセイは映画そっちのけで私事がたくさん出てくるのですが、両親がここ数年で相次いで他界したので、父の遺言もあって名古屋の両親が住んでいた実家を最近売り払った。30年以上になるニューヨーク生活で数えるほどしか帰省しなかったが、それでもいつも温かく迎えてくれる実家がもう失くなってしまったのは寂しい。

妹は街の中心地のマンションに住んでいるので、これから帰省する時は故郷でホテル滞在をすることになりそうだ。さらに足が遠のいてしまうかもしれない。そしてニューヨークが地理的にも精神的にもますます自分のベースとして確立してきた。

2001年9月11日、同時多発テロで一瞬で3000人を越すニューヨークの人々が命を失ってしまう悲しい経験を共有した。当時住んでいたヘルズキッチンの消防署では署員ほぼ全員の命が失われた。今まで大都会で暮らす冷たい他人としか思っていなかったニューヨーカー達のために涙を流して怒りに震えた。

その年の11月からクリスマスにかけて仕事でメリーランド州に滞在していたが、気持ちはニューヨークに残したままだった。

地方での仕事を終えてグレイハウンドで夜半にニューヨークに戻り、バスの窓から赤と緑に彩られたエンパイア・ステートビルが見えた時、自分が涙を流しているのに気が付いた。「家に帰って来たんだ…自分の家に」。午前2時過ぎのポートオーソリティー・バスターミナルに着きスーツケースを引きずり地下鉄の駅に向かうとエスカレーターが動いていない。仕方なく重いスーツケースを持ち上げて階段を登り、慌てて乗り込もうとした青ラインはドアが鼻の先で閉まってしまう。「まあ、いいか、歩いて帰ろう」。

8アベニューの喧騒に出て、たむろするアル中に訳もなく怒鳴られてもまだ顔が笑っていた。

そして、コートの襟を立てビルの谷間から12月の冷たい夜空を見上げて満面の笑顔でニューヨークに向かってつぶやいた。「F**k You, New York! I Love You, too」。それは、ニューヨークが自分の家になった瞬間だった。

大都会の厳しい現実

昇進のチャンスを求めて面接のためジョージとグエン・ケラーマン夫婦はオハイオ州から大都会ニューヨークに向かう旅に出る。機内でジョージは高級ホテルでの食事、きらびやかなブロードウェイのショー、面接に合格した暁には何倍にもなる昇給と幸せな生活を夢見る。しかし飛行機は霧のためボストンに到着。

空港ではジョージの胃潰瘍の薬と残りの現金が入った彼らの荷物は手違いでオハイオに残されたままであることを告げられる。

仕方なく乗りつけた電車は座席もない超満員、空腹のまま食堂車で2時間待ったあげくウェイターからはピーナッツバター・サンドイッチとクラッカーしか残っていないと言われる。ようやくグランドセントラル駅に着いたのは午前2時。ストでタクシーが動いておらず、土砂降りの雨の中ようやくたどり着いたホテルでは午後10時までしか部屋を確保していないと告げられ、路頭に迷う。そんな夫婦から親切を装った男がナイフで脅して金を巻き上げる。彼らを待ち受けていていたものは、大都会の厳しい現実の数々。しかしジョージは決して諦めようとしない。スティーブ・マーティンの1999年版もありますが僕はぜひこのオリジナルを見て欲しいです。もうすぐサンクスギビング、感謝祭の週末がやって来ます。あなたにとっての心休まる家で家族や友人と共に楽しく温かく過ごしてくださいね。

 

 

今週の1本

The Out of Towners
(邦題:おかしな夫婦)

公開: 1970年
監督: アーサー・ヒラー
音楽: クインシー・ジョーンズ
出演: ジャック・レモン、サンディー・デニス
配信: Amazon Prime Video、You Tube他

昇格につながる面接でオハイオからニューヨークにやって来た、ジョージとグエン・ケラーマン夫婦。憧れの大都会で厳しい現実の数々を経験することになる。

 

 

 

鈴木やす

映画監督、俳優。
1991年来米。ダンサーとして活動後、「ニューヨーク・ジャパン・シネフェスト」設立。
短編映画「Radius Squared Times Heart」(2009年)で、マンハッタン映画祭の最優秀コメディー短編賞を受賞。
短編映画「The Apologizers」(19年)は、クイーンズ国際映画祭の最優秀短編脚本賞を受賞。
俳優としての出演作に、ドラマ「Daredevil」(15〜18年)、「The Blacklist」(13年〜)、映画「プッチーニ・フォー・ビギナーズ」(08年)など。
現在は初の長編監督作品「The Apologizers」に向けて準備中。
facebook.com/theapologizers

 

 

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