レトロ作品 まったりレビュー

今週の1本 All the President’s Men

映画監督・鈴木やすさんが、思い出の映画作品を、鑑賞当時の思い出を絡めてゆったり紹介します。


新型コロナウイルス感染が世界中で爆発的に広がって間もなく、フェイスブックで知人がある情報を掲載していた。2018年にノーベル生理学、医学賞を受賞した京都大学名誉教授、本庶佑博士が、コロナウイルスは人間が遺伝子操作をしなければあり得ないウイルスであり中国の研究所でこれに似た怪しい研究が行われている現場を目撃した、との見解を発表したという情報だった。僕も気になって検索をしたら2回のクリックで京都大学の正式声明を見つけた。「本庶佑教授の名前をかたり情報が拡散されている状況を遺憾に感じている」とあった。ニセ情報だった。

以前にも書いたが、ピューリッツァー賞を3度受賞したジャーナリストでコラムニストのトーマス・フリードマンが言ったように、「フェイスブックは情報のどぶ川」だ。流れからすくった面白そうな情報が誰によって、どんな目的と意図を持ってアップされているのかが見えない。YouTubeのビデオも最近は編集ソフトがかなり発達して素人でも面白いビデオが簡単に作れる。表現の自由を盾にして多くの人たちを都合の良いように信じさせて陽動することが比較的容易に可能なメディアでもある。そしてその人にとって興味深い情報をアルゴリズムで目の前にずらりと並べて見せて気がつかないうちに僕たちの砂糖漬けされた脳は正常で公正な感覚を失っていく。荒唐無稽な虚偽情報を1回目のビデオでは受け流せても50回目のビデオでは、「そういうこともありうる」と信じてしまう。そうやって僕たちの社会はズタズタに分断されてしまった。別の意見を持った者同士が職場で、バーで、パーティーで、親戚の集まりで混じり合って熱い議論を交わしながらも最後はハグして、また明日から一緒に生きていくという以前は当たり前だったことがとても難しい世の中になってしまった。

ジャーナリストの姿勢

1972年6月17日の夜、首都ワシントンDCのウォーターゲート・ビルの警備員がドアに不審なテープが貼られているのを発見し警察に通報、民主党本部のオフィスに侵入していた5人組が逮捕される。裁判所で審理されている5人組の取材をしていたワシントンポスト紙の若手記者、ボブ・ウッドワードはただの窃盗にしては装備が最新鋭である事を不審に思い、その中の一人がCIAに関わっていたことを突き止める。敏腕先輩記者、カール・バーンスタインと共に取材を始めるが、政府機関の分厚い壁に阻まれ、編集主幹のベン・ブラッドリーからは情報提供者の証言の裏付けが不十分だとして掲載を却下される。しかしディープ・スロートと呼ばれる謎の情報提供者からの助言を元にしぶとく取材を続けていき、ついに時のニクソン政権の選挙の不正行為を告発する記事を掲載するに至る。

これは二期目のニクソン大統領を辞任に追い込んだ実際の出来事を丹念な考証を基にして作られた映画だ。特に注目してほしいのはジェイソン・ロバーツ演じる編集主幹が命懸けで取材を続ける若手記者に対してでさえも、情報提供者の証言の裏付けが取れるまでは頑なに記事の掲載を許可しなかったジャーナリストとしての姿勢だ。事実を元にしたジャーナリストを描いた映画をこのコラムで何度も紹介してきた。安易に作られSNS上で簡単に手に入り拡散されている情報と、分厚い事実検証を通り抜けた確かな情報との違いをSNSが手放せない今の若い読者にぜひ理解してほしいと願うからだ。

 

 

 

 

今週の1本

All the President’s Men
(邦題: 大統領の陰謀)

公開: 1976年
監督: アラン・J・パクラ
音楽: デヴィッド・シャイア
出演: ロバート・レッドフォード、ダスティン・ホフマン、ジェイソン・ロバーツ
配信: Hulu, HBO Max, Amazon Prime

1976年、ウォーターゲート・ビルに侵入した4人の窃盗犯が逮捕。強盗と思われた事件が、後にニクソン元大統領失脚につながるスキャンダルへと発展する……。

 

 

鈴木やす

映画監督、俳優。1991年来米。
ダンサーとして活動後、「ニューヨーク・ジャパン・シネフェスト」設立。
短編映画「Radius Squared Times Heart」(2009年)で、マンハッタン映画祭の最優秀コメディー短編賞を受賞。
短編映画「The Apologizers」(19年)は、クイーンズ国際映画祭の最優秀短編脚本賞を受賞。
俳優としての出演作に、ドラマ「Daredevil」(15〜18年)、「The Blacklist」(13年〜)、映画「プッチーニ・フォー・ビギナーズ」(08年)など。
現在は初の長編監督作品「The Apologizers」に向けて準備中。
facebook.com/theapologizers

 

 

あなたの思い出の
映画はなんですか?

レビューの感想や、紹介してほしい作品などの情報をお待ちしています。
editor@nyjapion.comまでお寄せください。

関連記事

NYジャピオン 最新号

Vol. 1159

夏バテはこれで解決!

暑さで体調を崩しがちなこの季節、ヘルスケアの専門家から夏を乗り切るための注意点や対策を教えてもらった。

Vol. 1158

今が旬のフルーツ狩りに行こう!

ニューヨークでもさまざまなフルーツが旬を迎えている今日この頃。自然に囲まれながら、甘くておいしいフルーツを思う存分堪能できる楽しいフルーツ狩りに、家族や友人と出掛けてみては?

Vol. 1157

魅力満載のグリーンポイントを解剖!

川を挟んでクイーンズのロングアイランドシティーと面するブルックリン最北端のグリーンポイントは、昔ながらの街並みと店を残しながらもトレンディーな店もあり、イーストリバー沿いは開発も進む注目のエリアだ。さらに進化する最近のグリーンポイントを歩いてみよう。

Vol. 1156

フェリーに乗って行く週末のプチお出掛け 〜スタテン島編〜

マンハッタン区南端からフェリーに乗ってわずか25分。通勤圏内にもかかわらず、住民以外で訪れる人が少ないスタテン島。しかし意外にも見どころはたくさんある。今号は「近くて遠い」スタテン島の魅力に迫る。