レトロ作品 まったりレビュー

今週の1本 Sunflower

映画監督・鈴木やすさんが、思い出の映画作品を、鑑賞当時の思い出を絡めてゆったり紹介します。


友人3人で映画祭を立ち上げた年、別の映画祭のパーティーである女性を紹介された。つい最近、長編映画を脚本監督、自身で主演もして今は編集中という彼女、イェレナは長い黒髪に大きな目鼻立ち、胸元の大きく開いた真っ赤なドレスでフェロモンをブンブン振りまいて映画のプロモーションをしていた。その年は行く先々の映画祭で彼女に会ったのでいつの間にか友達になっていた。イェレナはその後、わが家のサンクスギビングのディナーにも来てくれて、まだ小さかった娘をとてもかわいがってくれた。その夜初めて彼女がウクライナから女優を目指してニューヨークに来た思いを語ってくれた。

その翌年、イェレナががんで闘病中だという連絡が入った。その年のサンクスギビングにも来てくれる予定だったが直前でやはり調子が優れないという。そしてとうとう会えないままに訃報がやってきた。40代の若さでこれからの彼女が楽しみだったが、長編映画を一本でも自身で作り上げて夢を実現させたので、素晴らしい人生だったことを願う。イェレナは今、天国で故郷のウクライナが置かれている状況をどんな思いで見つめているだろう。ニュースを見る度に彼女のことを思い出して胸が痛む。

ひまわり畑の下には

第二次大戦中のナポリで出会い恋に落ちたジョバンナとアントニオ、間もなく出兵するアントニオはジョバンナと結婚式を挙げて少しの猶予が与えられる結婚休暇を取得する。しかし12日間だけの新婚生活は瞬く間に過ぎてゆき、アントニオは最も過酷なソ連戦線に送られる。終戦後、夫の帰りを何年も待ち続けるジョバンナの姿があった。関係省庁を何度も訪れ、帰還兵を尋ね回ってアントニオの消息を探し続けるジョバンナ。ようやく同じ部隊にいたという男からアントニオは部隊が果てしなく続く極寒の雪原を何十キロも歩いて後退している中、とうとう力尽きて雪の上で倒れたと聞く。

それでもアントニオは生きているという、いちるの望みを捨て切れないジョバンナはついにソ連に渡る。言葉も通じない社会主義の異国で彼女は夫の消息を必死に尋ね回り、ついに写真の顔に見覚えがあるという人の案内である農村の小さな家を訪れるがそこでジョバンナが見たものは…。

映画の舞台になった戦場のソビエト連邦西部は現在のウクライナだ。この映画は西側諸国の映画プロダクションが初めて、当時冷戦の真っただ中だったソビエト連邦で撮影が許可されて、現在のウクライナで撮影された。キエフの南、ヘルソン州で撮影された最も有名な一面に広がる美しいひまわり畑のシーンでのせりふが今となっては胸に突き刺さる。「この美しいひまわり畑の下には大勢のイタリア、ロシア、ドイツの兵士、そして巻き添えになった農民たちの亡きがらが眠っている」。ひまわりはウクライナの国の花にもなっている。

自分の住む街を占拠したロシア兵に向かってウクライナの女性が詰め寄る姿をニュースで見た。彼女は自動小銃を下げた兵士に向かってひまわりの種を差し出して言った。「この種をあなたのポケットに入れておきなさい。あなたが死んだらそこにはいつかひまわりが咲くだろうから」。戦争は美しい国土を破壊し、家族を打ち砕き、夫婦の愛を切り裂く。今、平和な国に住んでいる僕たちにできることはなんだろう?

恐怖をあおり、この事態に便乗して「日本も核を保有するべきだ」という政治家たちに振り回されないように、ブレない心を強く持ちたいと思う。この映画の中の美しいウクライナの風景を、今こそ少しでも多くの人に見てほしいと願う。そして僕は今夜も、イェレナの笑顔を思い出す。ピース✌️

 

 

今週の1本

Sunflower
(邦題: ひまわり)

公開: 1970年
監督: ビットリオ・デ・シーカ
音楽:ヘンリー・マンシーニ
出演: ソフィア・ローレン、マルチェロ・マストロヤンニ
配信: Amazon Prime、VUDU他

第二次世界大戦下のイタリア。
ジョバンナとアントニオはナポリで恋に落ち、結婚する。
その後アントニオはソ連の最前線に送られ、行方不明になってしまう……。

 

 

 

 

鈴木やす

映画監督、俳優。1991年来米。
ダンサーとして活動後、「ニューヨーク・ジャパン・シネフェスト」設立。
短編映画「Radius Squared Times Heart」(2009年)で、マンハッタン映画祭の最優秀コメディー短編賞を受賞。
短編映画「The Apologizers」(19年)は、クイーンズ国際映画祭の最優秀短編脚本賞を受賞。
俳優としての出演作に、ドラマ「Daredevil」(15〜18年)、「The Blacklist」(13年〜)、映画「プッチーニ・フォー・ビギナーズ」(08年)など。
現在は初の長編監督作品「The Apologizers」に向けて準備中。
facebook.com/theapologizers

 

 

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