レトロ作品 まったりレビュー

今週の1本 Purple Noon

映画監督・鈴木やすさんが、思い出の映画作品を、鑑賞当時の思い出を絡めてゆったり紹介します。


ジャック・ニコルソンはかつて、映画についてこう語った。「映画は真実ではない。映画は写真に写った真実だ」。この映画哲学は例えば「シャイニング」のバーカウンターのシーンで彼が見せた演技などに現れている。僕も同感である。映画はまず写真の芸術であると思う。重箱の隅をつつくような真実の描写よりも、まずは映像の力で観客の心を響かせたり、不安定に落ち着かなくさせたりする。そしてカメラの前に立っただけで、1960年代、70年代の女性の心を揺り動かせ、憧れのため息で満たし、男性の心までも痺れさせた俳優がアラン・ドロンさまであった。

言わずと知れた二枚目の代名詞的存在のフランス俳優である。この映画でスターダムにのし上がったドロンさまはその後、非情で寡黙でエレガントな殺し屋を演じた「サムライ」や、チャールズ・ブロンソンと共演した「さらば友よ」、ジャン・ポール・ベルモンドとの大スター共演「ボルサリーノ」などでスーツにくわえたばこで、決してほほ笑まない男のイメージを定着させたのだった。

当時の日本でも男女を問わず子供から大人まで絶大な人気を誇っていた。子供だった僕は毎日テレビで流れていた彼の出演する紳士服のコマーシャルのまねをして、父のブカブカの背広を羽織り、眉根にシワを寄せて、「ダーバン、セレレガンス デルオーム モデオーム」と精いっぱいの低い声で言うと、ドロンさまの大ファンだった僕の母はキャッキャッと言って喜んだ。僕にとっては13年間しか一緒にいられなかった実母との思い出がいっぱい詰まった俳優でもある。要するにめっちゃんこカッコいいんだよね。映像写りが最高の、映画スターの中の映画スターなのだ。

60年代、戦後生まれのアメリカの若者たちは旧態依然としたハリウッドのスタジオ撮影の王道ミュージカルや勧善懲悪のストーリーに背を向け始め、小さな映画館でヨーロッパ映画を見ていた。その世代の若きフィルムメーカーであるマーティン・スコセッシやアーサー・ペンなどが、後の低予算でありながらも世界の現実を描いたアメリカンニューシネマの波を起こしたことからも、当時のヨーロッパ映画が世界の映画界に与えた影響は大きいのである。

殺人と服の物語

資産家の友人の父親に5000ドルの報酬で依頼されて、ヨーロッパで遊びほうけている息子フィリップをサンフランシスコに呼び戻すことになった孤独な貧乏青年トム。しばらくはフィリップの婚約者、マルジュと3人でイタリアで散財していたが、次第にフィリップは育ちの悪いトムを見下し疎ましく思い始め、あからさまな意地悪を始める。貧しいが才能にあふれたトムは次第に嫉妬と怒りを燃やし始め、ついにフィリップを……。

この時代の映画で主流だった、都会、夜の暗い影、トレンチコートで犯罪を描いたフィルムノワールとは逆に、この映画は地中海、照りつけるイタリアの太陽、まぶしすぎる光と色、フランス風のしゃれた着崩しで犯罪を描いた。ある服飾評論家はこの映画を「殺人と服の物語」と言ったほど登場人物たちのファッションが物語の重要な表現になっている。貧しいが才能があり野心的な青年が、金持ちの青年の財産とアイデンティティーを少しずつ侵食していく過程を、主人公のワードローブの変遷で表現している。やぼったい装いから少しずつ洗練されていくにつれてトムの野心に満ちた目も欲望に燃えていく。ファッションに興味のある読者は特にこの映画を見てほしい。ああ、ドロンさま…💕

 

 

 

 

今週の1本

Purple Noon
(邦題: 太陽がいっぱい)

公開: 1960年
監督: ルネ・クレマン
音楽: ニーノ・ロータ
出演: アラン・ドロン、マリー・ラフォレ、モーリス・ロネ
配信: Apple TV、Amazon Prime他

資産家の友人の父に頼まれ、ヨーロッパで暮らす息子フィリップを呼び戻しに行くトム。
初めはイタリアで仲良く過ごすも、徐々に二人の関係が悪くなっていく…。

 

 

 

 

鈴木やす

映画監督、俳優。1991年来米。
ダンサーとして活動後、「ニューヨーク・ジャパン・シネフェスト」設立。
短編映画「Radius Squared Times Heart」(2009年)で、マンハッタン映画祭の最優秀コメディー短編賞を受賞。
短編映画「The Apologizers」(19年)は、クイーンズ国際映画祭の最優秀短編脚本賞を受賞。
俳優としての出演作に、ドラマ「Daredevil」(15〜18年)、「The Blacklist」(13年〜)、映画「プッチーニ・フォー・ビギナーズ」(08年)など。
現在は初の長編監督作品「The Apologizers」に向けて準備中。
facebook.com/theapologizers

 

 

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