レトロ作品 まったりレビュー

今週の1本 When Harry Met Sally…

映画監督・鈴木やすさんが、思い出の映画作品を、鑑賞当時の思い出を絡めてゆったり紹介します。


男と女は純粋な友達でいられるか?昔から語られてきた永遠の議論だが、最近はこんな話題も不用心にはできない。今回の映画はこの議論がメインテーマのロマンチックコメディーの名作だ。

この映画の公開時、僕はガチャガチャとたくさんの恋愛を繰り返していた。別れてはまたひかれ合う3年越しの腐れ縁があって、別れている合間を埋めるように、降って湧いては泡のように消えていく恋愛があって。ニューヨークへの移住を決めていたので、故郷を去って遠く海の向こうに旅立つ淋しさを人を好きになることで埋めていたのかも知れない。迷惑な話である。ごめんなさい…。

人の心をたくさん傷付けてしまったし、自分もたくさん傷付いた。恋愛は本当にうっとうしい。エネルギーも吸い取られるし、精神的にも不安定といったらありゃしない。結婚して「ああ、これでもう恋愛をしなくて済む」と思っていたのもつかの間、ドアを開けて外に出たら、また誰かを好きになってしまったりする。もういい加減にしてほしい。でも後悔はしていない。危険で不安定な道だけど、恋に出会えなかった人生、恋を失った経験をしない人生は想像できない。

恋愛をしようとしない最近の若い人たちが、「どうして恋愛しないのですか?」と質問されて、「コスパが悪いから」と答えたという話を聞いて、悲しくなった。せっかく生まれてきたのに、コストパフォーマンスだけを念頭に恋愛もしないで生きていくなんて、最も費用対効果の悪い生き方じゃないのかしら、と昭和生まれのお兄ちゃん(自分のことは決しておじさんと呼びません)は思ってしまう。

でも平成生まれで不況の日本しか知らない世代には、その世代にしかわからない悩みもある。でもね、傷付いた心は傷付いた数と深さだけその魂に情愛を深く刻んでいくものなのよ。その時は立ち直れないような失敗も、気付けばおかげで足腰がすごく強くなっていたりするものなのよ。

友情と恋愛の境界線

1977年、シカゴの大学を卒業し、新天地で新しい人生を歩むハリーとサリー。初めて会う二人はニューヨークまでのドライブをシェアすることになる道中で、このクラシックな議論を熱く戦わせる。「男と女はセックスが邪魔になって純粋な友達にはなれないんだよ」と語るハリーにサリーは激しく反論し、ドライブシェアはけんか別れで終わる。10年後、互いに別々の傷を背負った二人はニューヨークで再会し、意気投合して友達として歩き始める。友情と恋愛の境界線を行ったり来たりのハリーとサリー、「好きなの? どうなのよ?」…。

ロブ・ライナー監督が温めていたアイデアを、友人で脚本家のノーラ・エフロンと一緒に恋愛に関する体験談と議論を繰り返してエフロンが脚本を書き上げた。そしてこの映画を語る時に必ず話題に上るカッツデリカテッセンでのシーンは、メグ・ライアンとビリー・クリスタルのアイデアが、たくさん盛り込まれてできたそうだ。

映画は一人ではできないから面白い。机に座って想像力を羽ばたかせて書き上げた脚本が、撮影監督、美術、衣装、メイク、音楽、そしてキャラクターに息を吹き込む俳優、素晴らしい才能と情熱が注ぎ込まれて出来上がる映画は、机に座って想像していたものの、何百倍にも素晴らしいものになる瞬間があるからやめられない。そうなのよ、人生は自分の想像や計算を何百倍にも超えることがあるからね。Love like you’ve never been hurt. 皆さんにとって2022年が恋にあふれた年でありますように。

 

 

今週の1本

When Harry Met Sally…
(邦題: 恋人たちの予感)

公開: 1989年
監督: ロブ・ライナー
音楽: マーク・シャイマン、ハリー・コニック・ジュニア
出演: ビリー・クリスタル、メグ・ライアン
配信: Amazon Prime、Google Play他

大学を卒業したばかりで初対面のハリーとサリーが、ニューヨークへドライブシェアしながら「男と女が本当の友達になれるのか」という議論を始める。

 

 

 

 

 

鈴木やす

映画監督、俳優。1991年来米。
ダンサーとして活動後、「ニューヨーク・ジャパン・シネフェスト」設立。
短編映画「Radius Squared Times Heart」(2009年)で、マンハッタン映画祭の最優秀コメディー短編賞を受賞。
短編映画「The Apologizers」(19年)は、クイーンズ国際映画祭の最優秀短編脚本賞を受賞。
俳優としての出演作に、ドラマ「Daredevil」(15〜18年)、「The Blacklist」(13年〜)、映画「プッチーニ・フォー・ビギナーズ」(08年)など。
現在は初の長編監督作品「The Apologizers」に向けて準備中。
facebook.com/theapologizers

 

 

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