レトロ作品 まったりレビュー

今週の1本 Dirty Harry

映画監督・鈴木やすさんが、思い出の映画作品を、鑑賞当時の思い出を絡めてゆったり紹介します。


今回は言わずと知れた、名優クリント・イーストウッドの代表作である。ネオノワールという新しい映画のジャンルを作った、アクション犯罪映画の大傑作だ。正義と信念を貫き通すためには、組織のルールや法律でさえも逸脱して凶悪犯人を追い詰める、サンフランシスコ市警のアウトロー警部、ハリー・キャラハン。スパゲッティウェスタン映画で活躍していたクリント・イーストウッドが、それまで演じていた西部劇と同じような主人公を、当時のサンフランシスコに舞台を移して演じて、大ヒットした。

小学生だった僕は親にねだって、主人公と同じ44口径マグナム弾を使用する、スミス&ウェッソンM29のモデルガンを買ってもらい、さらにお小遣いを貯めて革製のショルダーホルスターも買って振り回して遊んでいた。銃規制が厳しく、銃犯罪のほとんどない日本だからできたことだ。アメリカで同じことをしたら、小学生といえども警察官に撃ち殺される危険性がある。良い子は決してマネしないようにね。

映画というのは、制作された時代の社会を色濃く反映する。愛と自由と平和を合言葉に、ベトナム戦争に反対する若者たちのカウンターカルチャーが席巻し、社会にはびこる差別の撤廃を訴えた、公民権運動もピークに達した1960年代後半。それ以後、アメリカの都市部では凶悪犯罪が増え続け、被害者が警察に訴えても犯人が検挙されないまま、泣き寝入りしなければならない憤りと無力感が、アメリカ社会に溢れていた。

そんな憤りを吹き飛ばすように44マグナムをぶっ放して、自身の正義を貫徹する主人公に、当時のアメリカ社会は夢中になった。しかし、リベラル派からの反発も強く、特に暴力で犯罪を解決するストーリーに抵抗したフェミニストの団体は、アカデミー賞の授賞式の外で反対デモを行ったという。ルールを逸脱しても正義を貫くアンチヒーローか、人権無視の暴力を増長する映画なのかは、映画を見る一人一人の感性にゆだねたい。

 

分断を超えて

俳優として、監督としてのその後のイーストウッドの活躍は皆さんもご存知の通りである。最近、日本に帰国する機中でイーストウッド監督の「リチャード・ジュエル」という映画を見た。96年のアトランタオリンピックで実際に起きた爆弾事件で、容疑者として誤認逮捕された実在のガードマンの物語だ。

この映画を見て、イーストウッド監督のミドルアメリカへの揺るぎない愛を感じた。大統領選挙のアメリカ地図では、いつも赤く塗られ、かつてはアメリカの産業を支え、今ではラストベルトと呼ばれる地域に住む人たちのことだ。僕は地方での仕事が多かったため、このミドルアメリカの人たちとの交流が多かった。時には家に泊めてもらい、地元のバーで地元のビールを一緒に飲んで、政治信条の違いを超えて、ヘベレケになるまで飲み明かしたことも、一度や二度ではなかった。

ミドルアメリカだけではない。昨年亡くなった僕の隣人も、揺るぎない保守派だった。でも、隣同士に暮らした十数年の間、会うたびに冗談を交わし、時には助け合い、小さかった娘はよく遊んでもらい、彼が連れ合いをなくした夜は、二人で遅くまで話し込んだ。

アメリカはつい最近までそうだったのだ。2008年の大統領選挙のキャンペーン中にオバマ候補を「人間としてどこか不快だ」と糾弾した支持者に向かって、ジョン・マケインは言った。「違う、彼は家族を大切にする立派な人間だ。われわれと意見が違うだけだ」。そんな時代に戻ってほしいと思いを巡らせながら、公開から50年の時を超え、この映画を見直した。

 

 

 

今週の1本

Dirty Harry
(邦題: ダーティハリー)

公開: 1971年
監督: ドン・シーゲル
音楽: ラロ・シフリン
出演: クリント・イーストウッド、アンディ・ロビンソン、レニ・サントーニ
配信: Amazon Prime、Apple TV他

サンフランシスコの屋上プールで泳いでいた女性が狙撃される事件が発生。職務遂行のためなら暴力も辞さないハリー・キャラハン刑事が捜査に乗り出す。

 

 

 

 

鈴木やす

映画監督、俳優。1991年来米。
ダンサーとして活動後、「ニューヨーク・ジャパン・シネフェスト」設立。
短編映画「Radius Squared Times Heart」(2009年)で、マンハッタン映画祭の最優秀コメディー短編賞を受賞。
短編映画「The Apologizers」(19年)は、クイーンズ国際映画祭の最優秀短編脚本賞を受賞。
俳優としての出演作に、ドラマ「Daredevil」(15〜18年)、「The Blacklist」(13年〜)、映画「プッチーニ・フォー・ビギナーズ」(08年)など。
現在は初の長編監督作品「The Apologizers」に向けて準備中。
facebook.com/theapologizers

 

 

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