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映画監督・鈴木やすさんが、思い出の映画作品を、鑑賞当時の思い出を絡めてゆったり紹介します。
カミさんが大学院で博士号取得を目指していた時期のある夕方、暗い顔をして帰ってきたかと思うと、ある科目で「Bプラスしかもらえなかった…」と悔しそうにつぶやいた。アメリカの大学の成績評価はAからFの6段階なのでBプラスは日本の5段階評価でいえば、限りなく5に近い4である。なんで悔しがるのか僕にはちっとも理解できないと答えると彼女は「だって私はずっとオールAの生徒だったのよ!」と言った。ずっと最高の点数を取り続けなければ気が済まないなんてかわいそうだなと思ってしまった。
僕には学校で良い成績を取るという必要性も感じなければ、情熱のかけらもなかった。でも自分は人よりも頭が悪いと思ったことも、感じたこともあまりない。学校で良い成績を取るというのは、頭の良さの基準でもないし、幸せのバロメーターでもなければ、人生の成功への約束手形でもない。僕にはたまたま執着したくなるような、幼い時期の成功体験がなかっただけのような気がする。というわけで長い言い訳になったが、学生時代はよく学校をサボった。僕の場合はサボってよく映画を見に行った。リスクを背負って見にいく映画は魂に響いた。
今、映画の仕事をしているので正しい選択だったとも言える。何をするにも経験というものはものをいう。何度も経験を積んだおかげで、学校をサボるのが素晴らしくうまくなった。やりたい時にむやみにサボったのでは落第してしまう。しばらくつまらない学校生活を我慢して、ここぞというタイミングでスパッと決断してサボる。大学時代のゼミの教授には、「君のサボり方はタイミングが絶妙でうまいね」と褒められた。僕にとっての成功体験である。おかげで大学卒業には5年半かかってしまった。結局落第してんじゃねえか。「褒められて調子に乗っている足元で、失敗は忍び足で近づいている」という重要な人生教訓を頂いたので、あの1年半の留年期間は無駄ではなかったとポジティブに捉えている。
人生最高の一日
映画という枠を超えて、人々の心に深く長く焼きつく映画がたまにある。「ゴッドファーザー」「ロッキー・ホラー・ショー」などは、印象的なセリフがことわざのように語り継がれたり、映画の隠れた哲学が何十年間にわたって議論されたりしてきた。
今回の映画も30年以上幅広い世代のファンの心をつかんできた。シカゴ郊外に住む高校3年生のフェリスは、秋晴れの気持ちのいい朝、「こんな日に学校に行けるわけがない」と、いつも悲観的な親友キャメロンとガールフレンドのスローンを引っ張り出し、キャメロンの厳しい父親が息子よりも大事にしているフェラーリを借り出すことにも成功する。
そして執拗に追い回す校長先生をかわしながら、シカゴの街で3人にとって人生最高の一日を経験する。いわゆるティーン映画なのだが、前述のようにこれほどまで長きにわたって語り継がれているティーン映画は他にない。フェリスは若い心に突き刺さるシンプルな言葉で語りかける。「人生は凄いスピードで動いちゃうんだ。たまには立ち止まって周りを見回さないと生きそびれちゃうんだよ」。80年代当時、この対照的なキャラクターと同世代だった僕は、時にフェリスであったり、ある時は悲観的なキャメロンであったりもした。そして映画を見終わった後は、キャメロンのように自分の殻を破って大人に一歩成長し、青春時代に人生最高の一日を過ごしたような清々しい気分にさせてくれた。映画っていいなあ。
今週の1本
Ferris Bueller’s Day Off
(邦題: フェリスはある朝突然に)
公開: 1986年
監督: ジョン・ヒューズ
音楽: アイラ・ニューボーン
出演: マシュー・ブロデリック、アラン・ラック、ミア・サラ
配信: Amazon Prime、Apple TV他
仮病を使って学校をサボることにした高校3年生のフェリスは、友達を連れ出し街に繰り出す。
しかし、仮病と疑う校長が彼の家まで訪ねて来てしまう。
鈴木やす
映画監督、俳優。1991年来米。
ダンサーとして活動後、「ニューヨーク・ジャパン・シネフェスト」設立。
短編映画「Radius Squared Times Heart」(2009年)で、マンハッタン映画祭の最優秀コメディー短編賞を受賞。
短編映画「The Apologizers」(19年)は、クイーンズ国際映画祭の最優秀短編脚本賞を受賞。
俳優としての出演作に、ドラマ「Daredevil」(15〜18年)、「The Blacklist」(13年〜)、映画「プッチーニ・フォー・ビギナーズ」(08年)など。
現在は初の長編監督作品「The Apologizers」に向けて準備中。
facebook.com/theapologizers
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