*こちらは記事&
映画監督・鈴木やすさんが、思い出の映画作品を、鑑賞当時の思い出を絡めてゆったり紹介します。
もうすぐハロウィーンがやってくる。アメリカで小さな子供がいる家は超忙しい日である。夕方、学校から帰宅して浮かれて気もそぞろの子供の仮装の着付けを手伝って、「パパも仮装してよ」とせがむ娘のために自分も仮装し、暗くなる頃に仲良しグループで集まってから近所のお店や家を子供たちのグループで練り歩くのについて行かないといけない。
そして自宅の前に他の子供たちが「Trick or Treat!!」 とやってくるので、用意したお菓子を一人ずつに渡していく。休日ではないのでそれを全部一日の仕事が終わった後にやらなきゃいけない。全てが終わった後は、ぐったりと疲れ切る。なんで休日にしてくれないんだろうと毎年思う。それでも夏頃から今年はどんな仮装にしようかとワクワクしている娘を見ると、うれしくなってまた今年もつい頑張ってしまう。
大学時代、バブルの真っ只中で雨後のたけのこのようにニョキニョキと各地の大学に新設されたパヤパヤ系の国際関係学部に在籍していた僕は、アメリカ人の大学教授たちと一緒になってクラス全員でハロウィーンに仮装して大学内をパレードした。
僕は前日に苦労して作ったマリオネット人形になって、カクカクしながら歩いた。日本ではハロウィーンなんて誰も聞いたことがなかった時代だったので、難しい顔をした工学部の学生や教授たちが「まったくチャラチャラしやがって…」と冷ややかな目で見ていた。
最近は日本でもハロウィーンがかなり浸透したけれども、仮装した若者たちが渋谷に集まって夜通し酔っ払って暴れる日であるそうな。アメリカに住んでいる私たちには「ちょっと違うんじゃねえか」という思いが拭えない。
開拓者たち
10月のホラーシリーズ3作目は、ホラーコメディーというジャンルを新しく切り開いたジョン・ランディス監督の傑作ホラー映画を紹介したい。1969年、無名時代のランディス監督は、自分で書き上げたこの映画の脚本を持って映画会社を打診して回ったが、「ホラーにしてはおかしすぎる、コメディーにしては怖すぎる」と言われ断られ続けた。その後、「アニマル・ハウス」や「ブルース・ブラザーズ」で成功した同監督が11年の時を経てようやく実現させたそうだ。僕たちインディー監督にとっては勇気の出る話である。
この映画が新しいジャンルを切り開いたおかげで80年代のその後、ハリウッドでは「グレムリン」「ビートルジュース」などのホラーコメディー映画が数多く制作され大ヒットを飛ばした。
さらにリック・ベイカーが手掛けたオオカミへの変身シーンで、この年に新設されたアカデミー・メークアップ賞の第1号として新しい映画制作の道も切り開いた。最近アカデミー・メークアップ賞を立て続けに受賞した日本出身アーティスト、カズ・ヒロさんの師匠でもあるので、彼らが開拓した世界がいかに大きいかがわかる。
誰もが一度は見たことのあるマイケル・ジャクソンの「スリラー」のPVもこの映画を見て興奮したマイケルが頼み込みランディス&ベイカーのコンビで制作された。恐怖に陥れられて緊張しまくったすぐ後にくる笑いは爆発的におかしい。そして笑って笑って弛緩(しかん)しているところに突然やってくるさらなる恐怖。恐怖と笑いは紙一重であることをここまで徹底的に表現したランディス監督は開拓者の称号にふさわしい。今年はこの映画でとことん笑って恐怖に慄(おのの)いてハロウィーンの夜を過ごしてみてください。
今週の1本
An American Werewolf in London
(邦題: 狼男アメリカン)
公開: 1981年
監督: ジョン・ランディス
音楽: エルマー・バーンスタイン
出演: デビッド・ノートン、ジェニー・アガター、グリフィン・ダン
配信: Apple TV、Amazon Prime他
イギリスへ旅行に来たアメリカ人大学生のデビッドとジャックは、ある満月の夜に荒野を歩いていると突然不気味な遠吠えと共に何者かに襲われてしまう。
鈴木やす
映画監督、俳優。1991年来米。
ダンサーとして活動後、「ニューヨーク・ジャパン・シネフェスト」設立。
短編映画「Radius Squared Times Heart」(2009年)で、マンハッタン映画祭の最優秀コメディー短編賞を受賞。
短編映画「The Apologizers」(19年)は、クイーンズ国際映画祭の最優秀短編脚本賞を受賞。
俳優としての出演作に、ドラマ「Daredevil」(15〜18年)、「The Blacklist」(13年〜)、映画「プッチーニ・フォー・ビギナーズ」(08年)など。
現在は初の長編監督作品「The Apologizers」に向けて準備中。
facebook.com/theapologizers
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