レトロ作品 まったりレビュー

今週の1本 八つ墓村

映画監督・鈴木やすさんが、思い出の映画作品を、鑑賞当時の思い出を絡めてゆったり紹介します。


俳優として叶えられなかった夢がいくつかある。その一つがいつかショーケンと一緒に仕事がしたかったということだ。彼は68歳の若さで2年前に亡くなってしまったので、今となってはもう叶うことはない。ショーケンは僕たちの世代にとって俳優以上の存在だった。昭和の一時代の若者のエネルギーの表現者であり、ファッションアイコンであり、永遠の不良少年であり、テレビの向こう側がまだ憧れだった時代の兄貴であった。

僕はショーケンと一緒になって時には七曲署の新米刑事になり、ある時は裏社会で暗躍する探偵事務所のヘマばかりする調査員になり、別の時は山形からやってきた深川の料亭で修行する若い板前になって、テレビの前で泣いたり笑ったり怒ったり恋をしたりしながら少年時代を過ごした。

BIGIがまだ代官山のマンションの一室で始まったブランドだった頃に「傷だらけの天使」で古着の革ジャンと合わせて着こなしたショーケンに憧れた。中学校時代には、なけなしのお小遣いをはたいてやっと買えたBIGIの茶色のトレーナーを、袖口がボロボロになるまで学生服の下に着続けた。その反動で大人になった今でも日本に帰国するとタケオキクチをごっそりと爆買いして家の中でも身につけている。

彼が芸能生活のキャリアの中で何度不祥事を起こしても、その人生の最後まで僕たちはショーケンを求めた。最近の日本では不倫をしたお笑い芸人までもが記者会見で謝罪させられるそうだ。嫌な時代になったもんだ。

 

記憶の器

10月はホラー映画を紹介しようと決めてから日本のホラー映画について考え、ずいぶん迷ったがこの映画を紹介したいと思った。市川崑監督の角川映画第1弾「犬神家の一族」と並び、1970年代の横溝正史ブームの火付け役となったのが、この映画だ。

厳密には推理小説が原作なのでミステリーのジャンルに入るが、野村芳太郎監督は「犬神家の一族」と一線を画す映画にしたいという思いから、設定を映画公開時の77年に変えた。

原作ではプロットの一部に過ぎなかった、戦国時代に村人に惨殺された落武者のたたりを前面に押し出し、血生臭いスプラッターな演出でこの映画を大ヒットさせた。

頭に懐中電灯を角のように2本巻き付けて日本刀を片手に着物を振り乱した山崎努が、桜の花が散り乱れる夜道を画面に向かって走り寄ってくる。その後ろで「たたりじゃあ、八つ墓のたたりじゃあ」と老婆が叫ぶテレビコマーシャルを初めてみた夜、あまりにも怖くて同じ男が日本刀を片手に走って向かってくる夢を見た。映画館に一緒に見に行った友達が、落武者たちが惨殺されるシーンのあまりの怖さにずっと目を覆っていたのを覚えている。小学6年生だった僕が初めて読破した大人の小説も「八つ墓村」だった。

ボロい着物にはかまを履き、ボサボサの髪にチューリップ帽でぼりぼりと頭をかきながら推理をする探偵、金田一耕助。そのキャラクターは石坂浩二が演じてから、古谷一行、豊川悦司などの二枚目俳優が演じることが多いのだが、横溝正史たっての希望でこの映画は寅さんシリーズの渥美清が演じている。

最近テレビで素敵なフレーズを聞いた。私たちは「記憶の器」だという言葉だ。残された私たちが天国に行った人たちを思い出す時、亡くなった人たちは私たちの記憶の器の中でありありと生き続ける。僕は永遠の不良少年、ショーケンをありありと生き続けさせる記憶の器でありたいと願う。

 

 

 

 

 

今週の1本

八つ墓村

公開: 1977年
監督: 野村芳太郎
音楽: 芥川也寸志
出演: 萩原健一、小川真由美、渥美清
配信: Amazon Prime他(日本国内のみ配信)

空港職員の寺田は祖父が毒殺死したことを機に、故郷の八つ墓村を訪れる。
その昔落武者が村人によって惨殺されたという村で、奇怪な連続殺人が続発する。

 

 

 

 

 

鈴木やす

映画監督、俳優。1991年来米。
ダンサーとして活動後、「ニューヨーク・ジャパン・シネフェスト」設立。
短編映画「Radius Squared Times Heart」(2009年)で、マンハッタン映画祭の最優秀コメディー短編賞を受賞。
短編映画「The Apologizers」(19年)は、クイーンズ国際映画祭の最優秀短編脚本賞を受賞。
俳優としての出演作に、ドラマ「Daredevil」(15〜18年)、「The Blacklist」(13年〜)、映画「プッチーニ・フォー・ビギナーズ」(08年)など。
現在は初の長編監督作品「The Apologizers」に向けて準備中。
facebook.com/theapologizers

 

 

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