レトロ作品 まったりレビュー

今週の1本 ときめきに死す

映画監督・鈴木やすさんが、思い出の映画作品を、鑑賞当時の思い出を絡めてゆったり紹介します。


千葉真一さんが旅立った。日本のアクション映画をけん引して、クエンティン・タランティーノ監督にも影響を与えた偉大なムービースターだった。お疲れ様でした。昭和の俳優が好きだ。1991年、平成3年からずっとニューヨークにいるので平成以降の日本映画の事情に疎くて、どうしても昭和の俳優に気持ちが残っている。高倉健、菅原文太のような大スターはもちろん、渋くて個性のある俳優さんたちがたくさんいた。昭和の俳優は「この役を演(や)らせたらこの人しかいない」という特別な個性が一人ずつあったように思う。今では自転車に乗って日本中の思い出の地を巡っているイメージのある火野正平さんだが昭和の一時代は、ヒモ、ごくつぶし、昼間からどてらを羽織ってぶらぶらパチンコをしているような「ダメやさ男」を演らせたら火野さんの右に出るものはいなかった。

ヤクザ映画一つを見ても松方弘樹、金子信雄、北大路欣也では演じるヤクザの個性が180度違う。橋爪功、石橋蓮司、桃井かおりのような昭和の個性派俳優が今でもベテラン俳優として活躍しているのを見られるのは本当にうれしい。そんな個性派俳優の中でもいぶし銀のように渋くて力強い個性があったのが杉浦直樹さんだった。映画よりも「岸辺のアルバム」や向田邦子作品「あ・うん」「父の詫び状」などの日本のテレビ史上に残る名作テレビドラマでの力強い昭和の父親の役の印象が深かった。

 

感覚の領域

この映画は丸山健二の原作を、「家族ゲーム」で話題になった森田芳光監督が大胆に脚色して監督の独特の映像世界で表現した異色の日本映画だ。俳優を配置してせりふを言わせてそれをカメラで撮っただけでは見ている人には何も伝わらない。映画館の暗闇の中で観客は映像と音の中からスライスされた時空の空気を感じているのだ。一触即発の暴力が爆発する寸前の肌にピリピリと感じる緊張感。目の前にいる人と歯車がどこか噛み合わないぎこちなく居心地の悪い違和感。Field of Senses(感覚の領域)を映像と動きとダイアローグと音楽で作り出すことができる映画が好きだ。この映画はそんな森田監督の独特な感覚の領域を105分間じっくりと感じることができる。

人生につまずいた歌舞伎町の医者がある組織から莫大な報酬で変わった仕事を依頼される。北海道の山荘である若者の世話をすること、彼に質問などは一切しないこと。やって来た若者は物静かでストイックにトレーニングに明け暮れ、酒もタバコも一切しない。そこの組織からもう一人の女が派遣され、少しずつ歯車が狂ってくる。

そして徐々にその組織の企みと若者の目的が明らかになっていく。この映画はオウム真理教事件が起こる10年以上も前に、新興宗教団体の、外からは内部が見えない不気味な違和感も描いている。

昭和の堅物の父親を演じてきた杉浦直樹が、ここでは人生につまずいた男を力強く演じていて本当に素晴らしい。当初この原作の映画化権を所持していた内田裕也に主演の沢田研二が頼み込んで権利を譲ってもらったそうだ。この映画のジュリーも素晴らしい。70年代に子供だった僕がジュリーへの思いを話しだすと止まらなくなるのでまたの機会にする。山田洋次監督の最新作、「キネマの神様」で惜しまれてコロナで亡くなった志村けんさんの代役を務めたそうだ。昭和の人間には胸が熱くなる話だ。ぜひとも映画館で見てみたい。

 

 

 

 

 

 

今週の1本

ときめきに死す

公開: 1984年
監督: 森田芳光
音楽: 塩村修
出演: 沢田研二、杉浦直樹、樋口可南子
配信: なし(Blu-ray&DVDを購入可能)
自称医者の男が謎の組織から任された極秘任務は、正体不明の若者の世話をすることだった。
組織から女が派遣され、3人の奇妙な共同生活が始まる。

 

 

 

 

 

鈴木やす

映画監督、俳優。1991年来米。
ダンサーとして活動後、「ニューヨーク・ジャパン・シネフェスト」設立。
短編映画「Radius Squared Times Heart」(2009年)で、マンハッタン映画祭の最優秀コメディー短編賞を受賞。
短編映画「The Apologizers」(19年)は、クイーンズ国際映画祭の最優秀短編脚本賞を受賞。
俳優としての出演作に、ドラマ「Daredevil」(15〜18年)、「The Blacklist」(13年〜)、映画「プッチーニ・フォー・ビギナーズ」(08年)など。
現在は初の長編監督作品「The Apologizers」に向けて準備中。
facebook.com/theapologizers

 

 

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