国内旅行で人気再燃 ハワイを満喫しよう ─ハワイ最新情報・前編─
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映画監督・鈴木やすさんが、思い出の映画作品を、鑑賞当時の思い出を絡めてゆったり紹介します。
その昔、日本での映画館上映は洋画も邦画も2本立てが主流だった。レコードのシングル版のA面とB面のように1回の料金で2本の映画が大抵は見られたので、映画を見に行くのは約2時間の時間つぶしではなく結構一日がかりだった。テレビコマーシャルで大々的に宣伝していて予備知識がかなり入るお目当てのメインの映画に比べて、同時上映のB面映画は予備知識も何もないまっさらな状態で見るので、新鮮な驚きを感じたいい映画もたくさんあった。
小学校低学年の頃は、当時まだ独身だった大阪に住む僕の叔父さんがお盆と正月には必ずうちに泊まりに来て、大好きな叔父さんは僕が大ファンで夢中になっていたドリフターズの映画を毎回映画館に見に連れていってくれた。
人気絶頂だったザ・ドリフターズはその時代、寅さんシリーズ「男はつらいよ」の同時上映用に何本か映画を作っていたのだ。そのおかげで寅さんシリーズにもはまり、一人で映画を見に行くようになってからは自分で「男はつらいよ」を見に行っていた。今では日本でもシネコンが主流を占めてこの同時上映2本立てという形態は廃れていったそうだが、お小遣いを貯めて映画館に通い詰めていた中学高校の時代はやはり映画が2本見られたのは得したし、なにしろあの時代の新鮮な驚きが懐かしい。
切ない胸の高鳴り
そんな中学生だった頃に当時話題だったホラー映画「悪魔の棲む家」を見に行って、その同時上映で見てすっかり気に入ってしまったのが今回紹介する映画だ。ホラー映画にラブストーリーをカップリングしてくる配給会社のセンスは首をかしげたくなるけど、もしかしたらあえてそうしていて戦略的に結構成功していたのかもしれない。
主人公はニューヨークに住むシングルファーザーのコマーシャル作曲家ボブ。彼は中年の域に差し掛かり、貧しいながらもクラシックピアニストとして夢を追いかけ続ける友人を見て、業界で成功はしているものの自分のキャリアは本当にこれで良かったのかと疑問を持ち始め、過去を振り返り始める。
そんな時に12年前に別れた大学時代の恋人ジェニファーに再び出会う機会が訪れる。一度は諦めた恋だがまだ心の深くにくすぶっていたのを知ったボブは、再び彼女への思いを燃やし始める。
中学生だった僕はこの映画に夢中になり、この映画だけを見るために「悪魔の棲む家」を飛ばして何度も映画館に足を運んだ。眼鏡を掛けたシェリー・ハックの知的な優しさに満ちた美しいほほ笑みに恋焦がれ、本人も作曲家のブルックス監督が作ったサウンドトラックのLP版は2枚組の豪華なもので、なけなしのお小遣いをはたいて擦り切れるほど聞いた覚えもある。
今回あまり知られていないこの映画のコラムを書くにあたってリサーチをしてみて驚いた。なんとこの映画は1978年公開の年のワーストムービーをはじめ、監督のセンス、楽曲は2曲、スクリーンカップル、主演女優に至るまで全てワーストにノミネートされるという不名誉に輝いていた。興行的にも大失敗でかなりの負債を抱えたらしくその後、ブルックス監督の作品もシェリー・ハック主演の映画も作られることはなかった。
でも僕は今でもこの映画が大好きだ。まだ経験したことのなかった恋愛に憧れていたのか、まだ行ったことのなかったニューヨークという街に憧れていたのか、大人の階段を登り始めた僕があの時に感じた切ない胸の高鳴りは今でもありありと思い出すことができる。誰がどんな評価を下そうが関係ない。僕にとっては大切な映画なのだ。
今週の1本
If Ever I See You Again
(邦題: わが心のジェニファー)
公開:1978年
監督: ジョー・ブルックス
音楽: ジョー・ブルックス
出演: ジョー・ブルックス、シェリー・ハック
配信: なし
売れっ子CMソングライターのボブは、仕事で成功はしていたがクリエーターとして不満を抱いていた。
そんな時、かつての恋人ジェニファーの消息を知る。
鈴木やす
映画監督、俳優。1991年来米。
ダンサーとして活動後、「ニューヨーク・ジャパン・シネフェスト」設立。
短編映画「Radius Squared Times Heart」(2009年)で、マンハッタン映画祭の最優秀コメディー短編賞を受賞。
短編映画「The Apologizers」(19年)は、クイーンズ国際映画祭の最優秀短編脚本賞を受賞。
俳優としての出演作に、ドラマ「Daredevil」(15〜18年)、「The Blacklist」(13年〜)、映画「プッチーニ・フォー・ビギナーズ」(08年)など。
現在は初の長編監督作品「The Apologizers」に向けて準備中。
facebook.com/theapologizers
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