レトロ作品 まったりレビュー

今週の1本 You Only Live Twice

映画監督・鈴木やすさんが、思い出の映画作品を、鑑賞当時の思い出を絡めてゆったり紹介します。


15年ほど前の話になるが、ある日僕のエージェントから電話があった。

「先日受けたオーディションに受かったよ、明日以降スケジュール空いてる?」「おお、よかった。空いてるよ」「じゃあ明日ギリシャに行ってくれ」「…」。

明日ギリシャに行ってくれと言われたのは初めてである。というわけでギリシャのコマーシャルの撮影で翌日アテネに飛んだ。トヨストーブでおなじみのトヨトミのギリシャ法人が、いろんな映画の中のヒーローを日本人にやらせるというエアコンのコマーシャルシリーズで、僕の役はなんと日本人ジェームズ・ボンド。ちなみにトヨトミの本社は名古屋にあって、僕はこの本社のでっかい看板を通学のバスの中からよく見た。縁が深い。

前日の夜に第1作目のドクター・ノオとこの作品のDVDをレンタルして見た。一晩しか準備期間がないけれど、まあ何もしないよりはいいだろう。アテネでの撮影ではバーテンダー役のイギリス人俳優とボンドガール役のブラジル出身のモデルの女性と意気投合して本当に楽しい撮影になった。

黒のタキシードを華麗にまとい、胸元の深く開いたドレスを着た絶世の美女と腕を絡め、カジノの喧騒の中をさっそうと歩いて行くカットを何度も撮っているうちに段々ジェームズ・ボンドの気分になってくる。役者はやっぱりバカだよな。でもその自分をもだますお調子者のバカが商売なのだからしょうがないし、やめられない。気になる読者はYouTubeで「Japanese James Bond in Greek Commercial」と検索してみてください。

 

 

素晴らしき
エンタメの商魂

007シリーズは超人気シリーズというだけあってファンの熱量がすごい。現時点で6人いるボンドを演じた俳優の中で誰が最もイアン・フレミング原作のイメージに近いか? 次回作を最後にボンド役を卒業するダニエル・クレイグの後任にはどの俳優が最適か? 読者の皆さんの中にも強い意見をお持ちの方がいると思う。

僕は25作品あるこの人気シリーズの中からこの作品を選んだ。日本が舞台だからというだけではなくて、この作品が初期のショーン・コネリー・ボンドの中では一番好きだ。米ソが打ち上げたそれぞれのロケットを謎の宇宙船がのみ込んでしまい、お互いを非難し合って核戦争が始まってしまいそうになり、その謎を探るためにイギリス情報諜M16はジェームズ・ボンドを香港で一度偽装殺害させて、死んだはずのボンドをひそかに日本に潜入させる。

話のスケールがでかい。60年間近く、25作品も同じキャラクターを同じジャンルでシリーズ映画を作っているとどうしてもマンネリ化して観客に飽きられてしまうが、特に近年のダニエル・クレイグのボンドになってからのシリーズをリフレッシュさせるアイデアの数々は本当に素晴らしい。

ボンドの愛車アストンマーティンDB5、ワルサーPPK、オメガの腕時計、シェークされたウオッカ・マティーニ。観客の期待を絶対にはずさないようにしつつも現代に合った新しい風をシリーズに吹き込んでいる。人気シリーズをファンに飽きさせないエンタメの商魂はたくましい。コロナ禍で上映が延びに延びてしまった最新作、「No Time To Die」の10月の公開が今から待ちきれない。

 

 

 

 

今週の1本

You Only Live Twice
(邦題: 007は二度死ぬ)

公開: 1967年
監督: ルイス・ギルバート
音楽: ジョン・バリー
出演: ショーン・コネリー、丹波哲郎、浜美枝
配信: Apple TV、Google Play 他
ジェームズ・ボンドが日本に乗り込んで活躍するシリーズ第5作。
米ソ両国の対決をもくろむスペクターの陰謀を、日本の諜報部員の協力を得て打ち砕く。

 

 

 

 

 

 

鈴木やす

映画監督、俳優。1991年来米。
ダンサーとして活動後、「ニューヨーク・ジャパン・シネフェスト」設立。
短編映画「Radius Squared Times Heart」(2009年)で、マンハッタン映画祭の最優秀コメディー短編賞を受賞。
短編映画「The Apologizers」(19年)は、クイーンズ国際映画祭の最優秀短編脚本賞を受賞。
俳優としての出演作に、ドラマ「Daredevil」(15〜18年)、「The Blacklist」(13年〜)、映画「プッチーニ・フォー・ビギナーズ」(08年)など。
現在は初の長編監督作品「The Apologizers」に向けて準備中。
facebook.com/theapologizers

 

 

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