レトロ作品 まったりレビュー

今週の1本 The Blues Brothers

映画監督・鈴木やすさんが、思い出の映画作品を、鑑賞当時の思い出を絡めてゆったり紹介します。


このエッセイをシカゴで書いている。妻の里帰りでこの街に毎年クリスマスの時期に訪れるので、夏のシカゴは久しぶりだ。高層ビルの谷間を走る高架電車。低層階のれんが造りの住宅に木製のバルコニー。通りの裏に張り巡らされた名前のない路地。そんな独特の街の作りを眺めながらグースアイランドのドラフトビールを楽しみ、どこからともなくバーベキューの匂いとカブスの野球中継が聴こえてくると、僕のバケーションモードのスイッチが入る。

この街は音楽とスポーツをこよなく愛する。北アメリカはアラスカを除いた49の州とカナダに訪れたが、ナッシュビル、モントリオール、ニューオーリンズ、シアトルと、音楽のあふれている街で楽しくない街は一度もなかった。ハンドルの遊びのようなある種の余裕が人々からも感じられる。

レイバーデーの週末にはシカゴ・ジャズ・フェスティバルが開かれ、ダウンタウン一帯が大きなジャズコンサート会場になる。禁酒法時代からあるジャズクラブ、「グリーン・ミル」のステージの前の一番いいブース席はアル・カポネの特等席だったので今でも、アル・カポネ・ブースと呼ばれている。

冬も楽しい。バーの暖炉の近くの席でホットワインをちびちび飲みながら窓の外のちらちら舞い降りる雪を眺めていると心から温まる。この街に対する愛を語ればきりがない。そんなシカゴを舞台にした映画で一番代表的なのが今回紹介する映画だ。

 

 

帰らざる時代

僕には母が2人いた。1人目の母は僕が13歳の時に病死して、2人目の母も3年前に亡くなった。1人目の母が脳溢血で倒れ、8カ月間脳死状態だった中学2年のつらい時期にこの映画を見た。同じ映画を多分7回ぐらい映画館に通いつめて見たと思う。母の脳死状態がいつまで続くかわからない。でも近いうちに死ぬんだろう。そんなことを考えたくなくてこの映画を何回も見続けた。

ジェームズ・ブラウン牧師のゴスペル・ソウルを聴いてジョン・ベルーシが神の声を聞き叫ぶ「俺には光が見える!」。アレサ・フランクリンが家族を顧みずバンドに参加しようとする夫に歌と踊りで「THINK!」と抗議する。楽器店の盲目の主人、レイ・チャールズがキーボードを弾いて歌いだすと、町中の若者が一緒に踊りだす。カーチェイスのシーンでは車を103台ぶっ壊し、1200フィートの高さから車をシカゴのダウンタウンにたたき落とし、キャリー・フィッシャーはバズーカ砲を撃ち、ビルを爆破させ、火炎放射器を放ち、M16ライフルを撃ちまくり、2人の主人公を捕まえようと500人の警察官と兵士と戦車まで結集して、ビルを囲む。

最近の映画はキャンセルカルチャーにおびえてポリティカリーコレクトを過度に気にして際どいジョークもできない上に、危険なアクションシーンはCGが多い。こんな馬鹿なアイデアを莫大な予算で実際にやってのけてしまう映画はもう作れないだろう。

実際にジョン・ランディス監督はこの映画の数年後、ベテラン俳優1人と子役の子供2人を撮影中の事故で死なせてしまい、映画撮影の規制は厳しくなった。

今年のアカデミー賞ノミネート作品の数々のように、人間の内面をじっくり見つめて考えさせるストーリーの名作だけが映画じゃない。死が間近の脳死状態の母親を抱えた13歳の少年のために、車を103台ぶっ壊して、バズーカ砲をぶっ放し、ブルースを歌い踊りまくることで一時でもその悲しみを忘れてもらうのもまた映画なのだ。

 

 

 

今週の1本

The Blues Brothers 
(邦題: ブルース・ブラザーズ)

公開: 1980年
監督: ジョン・ランディス
音楽: ジェームズ・ブラウン、アレサ・フランクリン、レイ・チャールズ 他
出演: ジョン・ベルーシ、ダン・エイクロイド
配信: Apple TV、Google Play 他
全身黒づくめのジェイクとエルウッドのブルース兄弟が、孤児院を救うためブルース・ブラザース・バンドを再結成するミュージカルコメディ作品。

 

 

 

 

鈴木やす

映画監督、俳優。1991年来米。
ダンサーとして活動後、「ニューヨーク・ジャパン・シネフェスト」設立。
短編映画「Radius Squared Times Heart」(2009年)で、マンハッタン映画祭の最優秀コメディー短編賞を受賞。
短編映画「The Apologizers」(19年)は、クイーンズ国際映画祭の最優秀短編脚本賞を受賞。
俳優としての出演作に、ドラマ「Daredevil」(15〜18年)、「The Blacklist」(13年〜)、映画「プッチーニ・フォー・ビギナーズ」(08年)など。
現在は初の長編監督作品「The Apologizers」に向けて準備中。
facebook.com/theapologizers

 

 

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