レトロ作品 まったりレビュー

今週の1本 La Cage Aux Folles

映画監督・鈴木やすさんが、思い出の映画作品を、鑑賞当時の思い出を絡めてゆったり紹介します。


25年ほど前、ニュージャージーでの舞台公演で、この映画と原作が同じミュージカル「ラ・カージュ・オ・フォール」にコーラスダンサーとして参加した。ブロードウェーでも1983年に初演され、何度もリバイバル公演されているので見た人も多いと思う。僕の役はニコールという金髪美女。カジュアルズと呼ばれる12人の美女コーラスダンサーのうち、どの美女ダンサーが男性でどれが女性キャストか見つけるのもこの舞台の楽しみの一つになっている。

衣装は83年のブロードウェー初演時の豪華絢爛な衣装をそのまま使わせてもらい、オープニングのナンバーでは僕たちダンサーは8つの衣装を早変わりで7回着替える。28年に建てられた観客数1334の歴史ある劇場だったが、ボードビルや無声映画のために建設された劇場なので舞台裏の設備が少なく、舞台の上手にはけて下手から現れる時は、いったん劇場の外に出て裏の駐車場を駆け抜けなければいけなかった。スパンコールキラキラのレオタードにピンクの孔雀の羽をひるがえした身体のでかい厚化粧の美女達が突然目の前をハイヒールで駆け抜けるのを目撃した人たちはさぞかし驚かれたと思う。

公演に向けてのリハーサルの時期に今の妻と結婚した。ニューヨークの市役所で略式の式を挙げてからその足でリハーサルに向かった。当然のことのように僕のこともゲイだと思っていたキャストの面々は、僕の左手の薬指に光る小さな指輪を目ざとく見つけて、僕は質問攻めにあった。おかげでゲイが多数派の環境でストレートの男性としてカミングアウトするという貴重な経験をさせてもらった。語り尽くせない思い出のある作品だ。

 

時代遅れを笑い飛ばす

この映画はブロードウェーミュージカルの他にも、ハリウッドがロビン・ウィリアムズとネーサン・レーンの豪華なキャストで96年にリメイクした「バードケージ」という映画もあるけれど、僕はこのオリジナルのフランス映画をお勧めします。

舞台は南フランスのバカンス観光地、サントロペ。ここで人気の女装アトラクションナイトクラブ「ラ・カージュ・オ・フォール」を経営するレナートと店の花形シンガーでレナートのパートナー、アルバンのもとへ、レナートが20年前に授かった息子ローランが久しぶりに帰郷してくる。ローランはガールフレンドのルイーゼと婚約したと告げ、レナートが喜ぶのもつかの間、ルイーゼの父親は超保守派の政治家であることがわかる。息子の結婚を台無しにしたくないレナートとアルバンは、必死の努力でごく普通の家族であることを装おうとするというストーリーだ。

この映画が作られたのが43年前のフランス。LGBTQに理解を示そうとしない保守派の時代遅れさをコメディー映画にして笑い飛ばしたものだ。悲しいかな日本ではいまだに「人間は生物学上、種の保存をしなければならずLGBTはそれに背くもの」という発言をした自民党の政治家がいたり、最高裁が夫婦別姓を認めない民法の規定は合法という判断を下したり、先進国とは言えない時代遅れさだ。コペルニクスが科学的探求によって地動説を唱え始めた時代、宗教的な教義から離れられない教会や多くの人たちはかたくなに天動説から抜けられずにいた。そんな過去の人たちを歴史の教科書で読んで笑っている場合だろうか。ジェンダーは男と女の二つにはっきりと区別できるものではなく、グラデーションのあるスペクトラムであるという科学的事実を受け入れられない現代人を、未来の人間が笑っているように僕には思えて仕方がない。

 

 

 

 

今週の1本

La Cage Aux Folles 
(邦題: Mr. レディMr. マダム)

公開: 1978年
監督: エドゥアール・モリナロ
音楽: エンニオ・モリコーネ
出演: ウーゴ・トニャッツイ、ミシェル・セロー
配信: Apple TV、Google Play 他
レナートとアルバンは長年一緒に暮らすゲイカップル。ある日元妻との息子が婚約、その相手は保守派の娘だった。2人は息子の結婚のために悪戦苦闘する。

 

 

 

 

 

鈴木やす

映画監督、俳優。1991年来米。
ダンサーとして活動後、「ニューヨーク・ジャパン・シネフェスト」設立。
短編映画「Radius Squared Times Heart」(2009年)で、マンハッタン映画祭の最優秀コメディー短編賞を受賞。
短編映画「The Apologizers」(19年)は、クイーンズ国際映画祭の最優秀短編脚本賞を受賞。
俳優としての出演作に、ドラマ「Daredevil」(15〜18年)、「The Blacklist」(13年〜)、映画「プッチーニ・フォー・ビギナーズ」(08年)など。
現在は初の長編監督作品「The Apologizers」に向けて準備中。
facebook.com/theapologizers

 

 

あなたの思い出の
映画はなんですか?

レビューの感想や、紹介してほしい作品などの情報をお待ちしています。
editor@nyjapion.comまでお寄せください。

 

               

バックナンバー

Vol. 1288

NYでカラオケ

1960年代後半、日本で発祥し国民的娯楽となったカラオケ。80年代以降、台湾や韓国などアジアをはじめ、海外に進出したカラオケは、今や北米やヨーロッパでもみんなに愛されるエンターテインメントとなっている。ここニューヨークでも「KARAOKE」の看板を見掛けることもしばしば。今号では、カラオケで上手に歌うコツや市内にあるカラオケ店を紹介!思い切り歌って騒いで、ストレスを発散しよう!

Vol. 1287

スタンドアップコメディーを見に行こう!

マイク1本で客を笑わせるスタンドアップコメディー。その内容は時事ネタや政治・経済、人種、宗教からジョークや下ネタまで幅広い。今回は、ニューヨークで奮闘する日本のお笑い芸人・村本大輔さんや、コメディーショーのプロデューサーとして活躍するドリュー・ビークラーさんらに、ニューヨークのスタンドアップコメディーについて話を聞いた。

Vol. 1286

私たち、こんなことやってます!

気になる企業を深掘りする連載企画。今回はPi Water Inc.の代表 太田光子さんにインタビュー。

Vol. 1285

今年のサマーキャンプはダンスで体を動かそう!

毎年どのような夏の過ごし方をしようか保護者は頭を悩ませるもの。しかしサマーキャンプは思い切って新しい分野に挑戦するいい機会。今年はヒップホップやジャズ、コンテンポラリーダンス、バレエで思いっきり体を動かす夏はいかが。