レトロ作品 まったりレビュー

今週の1本 A Man and a Woman

映画監督・鈴木やすさんが、思い出の映画作品を、鑑賞当時の思い出を絡めてゆったり紹介します。


学生の娘はいつも食後のデザートを料理好きのパパに作ってくれとねだる。僕はよしよしと張り切って、いちごにバニラアイスクリーム、その上に手作りのチョコレートムースを重ね、これまた手作りのチョコフレークを砕いてふりかけ、仕上げにプランターのミントの葉を少しちぎってトップに飾る。

料理は種類の違うフレーバーと食感と香りを組み合わせることで1足す1は2の足し算ではなく10倍にも20倍にも美味しくなるからだ。パパにねだるのも無理はない。そこにアメリカ人のママがやって来て小言を言う。「そんなに脂肪分が多くてカロリーの高いものを食べさせちゃダメじゃない!」。至福のデザートを楽しんでいる娘を見て喜んでいたパパは、「ママ、人生は短いんだ。フランス人のように生きようじゃないか」と言い訳をする。哲学の博士号を持っている大学教授のカミさんは、こういうレトリックに弱い。ぶつぶつ言いながらもしぶしぶ了承する。

フランス人のように生きたいと思う。小さな車に乗ってサザンやユーミンがスピーカーから流れてこない静かなビーチでバカンスを過ごし、夏は生ガキとシャブリ、冬はステーキとボルドーの赤ワイン、バターはたっぷり、芸術に囲まれて哲学的な会話を楽しみ、脇毛を剃らずにセックスをたくさんして人生を過ごしたい。もう人生を折り返したので本当にそう思う。

 

 

今夜はフランス映画が見たい

今回はおフランス映画である。時々無性に「今日はビーフブルゴーニュに濃くて深い赤ワインが飲みたい」と感じるのと同じで、「今夜はどうもフランス映画が見たい」と感じる夜がある。そんな時に棚の奥深くから引っ張り出すDVDがこの映画である。ストーリーは至って単純。連れ合いを亡くした子持ちの男と女が恋に落ちるが、過去の思いに引きずられてなかなか気持ちの整理がつかない恋愛物語。その単純なストーリーがどっぷりとフランスらしさに浸っているのだ。

夕暮れに染まる海岸のボードウオークの遠くの方を、犬を連れた老人が歩いている。「彫刻家のジャコメッティは言ったよ、もし火事が起きてレンブラントの絵と猫のどちらかしか救えないとしたら、猫を救う。そして放してやるってね」「芸術か人生かなら人生を選ぶのね、美しいわ」。こんな素敵な主人公の男と女のダイアローグと、フランシス・レイの美しく悲しい旋律が望遠レンズで撮った心を揺さぶる映像に重なる。オーララー、フランス映画だ。

ルルーシュ監督の映画との出会いは、子供時代ユダヤ人の彼がパリでナチスのゲシュタポに追い回されて家族と映画館に逃げ隠れた時だそうだ。命を救ってくれた映画を天職と感じたと語っている。そして1960年の処女作品を批評家に「ルルーシュという名前を覚えておこう、もう二度と聞くこともないだろうからな」と完膚なきまでに酷評されたが、そこで諦めずにその後も映画を作り続けた。

そして6年後にこの作品でカンヌ映画祭のグランプリに輝いた。そこが芸術家と批評家の違いだ。今ではよく見る手法のモノクロとカラー、違う種類のフィルムを一本の映画に入れるのもルルーシュ監督が始めたそうだ。実は予算不足で仕方なくの方法だったらしい。

人生は短いんだ。正社員の半分の給料でこき使われている腹いせに、ネットで匿名に隠れて弱い者いじめをするようなつまらない人生を生きてどうする。好きなことに思い切り情熱を傾けて、愛する人を心から愛して生き抜いたなら、負けたって最後に笑って死ねるじゃないか。この映画を見るとルルーシュ監督にそんなことを言われているように感じる。

 

 

 

 

今週の1本
A Man and a Woman
(邦題: 男と女)

公開: 1966年
監督: クロード・ルルーシュ
音楽: フランシス・レイ
出演: アヌーク・エーメ、ジャン=ルイ・トランティニャ
配信: Amazon Prime、Apple TV他
共にパートナーを失い、一人で子供を育てるアンヌと、カーレーサーのジャン=ルイが惹かれあう恋愛物語。
有名な主題歌と共に語り継がれるフランス映画。

 

 

 

 

 

鈴木やす

映画監督、俳優。1991年来米。
ダンサーとして活動後、「ニューヨーク・ジャパン・シネフェスト」設立。
短編映画「Radius Squared Times Heart」(2009年)で、マンハッタン映画祭の最優秀コメディー短編賞を受賞。
短編映画「The Apologizers」(19年)は、クイーンズ国際映画祭の最優秀短編脚本賞を受賞。
俳優としての出演作に、ドラマ「Daredevil」(15〜18年)、「The Blacklist」(13年〜)、映画「プッチーニ・フォー・ビギナーズ」(08年)など。
現在は初の長編監督作品「The Apologizers」に向けて準備中。
facebook.com/theapologizers

 

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