レトロ作品 まったりレビュー

今週の1本 The China Syndrome

映画監督・鈴木やすさんが、思い出の映画作品を、鑑賞当時の思い出を絡めてゆったり紹介します。


倍公房の戯曲、「制服」の鹿児島公演に向けてリハーサルを始めた。コロナ渦中の舞台のリハーサルなのでリモートでまだ読み合わせの段階である。終戦間近の混乱した朝鮮半島での日本人警察官と地元の朝鮮人家族との、あつれきがテーマの作品で、1955年、昭和30年に書かれた作品だ。

この時代の日本文学を学生の頃かなり読んだ。野坂昭如、遠藤周作、吉本隆明。同じ時代の日本映画もかなり見た。熊井啓、大島渚、市川崑。これらの作家の描くテーマはブレずにいつも一貫していた。「第2次世界大戦の時代に自分は何をしたのか」という作家自らへの問いかけを通して、読者や観客にも同じ問いかけをしていた。野坂昭如はインタビューで、「戦争孤児だった子供の自分が、飢えからまだ赤ん坊だった妹を死なせてしまった。あんな経験は簡単に忘れられるもんじゃない」と言った。

まだ大人になっていなかった僕は、これらの文学や映画を通じて自分なりに想像し続けていた。「大人になって社会の一員になった時、自分は正しいことができるだろうか」。そんな時代にこの「チャイナ・シンドローム」を見た。中学一年生だった。

 

 

全世界が目撃した原発事故

見終わって映画館の明かりがついても、座席で体の震えが止まらなかったのを今でも覚えている。原子力発電所の安全性に疑問を持ち、真実を伝えようとするジャーナリスト。最初はそんなジャーナリストをいぶかっていた発電所の技術責任者は、予算のかかる検査やメンテナンスを嫌がって長期にわたり検査報告書の改ざんをしてきた経営陣の不正に気付き、このままでは取り返しのつかない大事故につながると告発に踏み切る。

この映画が公開された12日後にペンシルベニア州スリーマイル島の原子力発電所で事故が起きた。7年後にはチェルノブイリの原発事故が起きた。そして32年後、全世界は目撃した。福島第一原子力発電所の事故のすぐ後、原発の安全性を声高に訴えていた科学者はカメラの前で「科学に絶対はありませんから」と言い放った。

水素爆発を起こしている原発事故現場で死を覚悟で作業に翻弄する作業服の技術者達と、現場から200キロ離れた東京電力本社でスーツを着て一向に決断を下したがらない経営陣とのテレビ会議。荒れ狂うゴジラのような原子炉を鎮静させる術もなく決死の覚悟で現場に向かう消防士達。後に発覚した「東電は津波対策として貞観地震を検討すべき」という有識者達の提言を無視し続けていた東京電力経営陣。

過去と未来からの問いかけ

今、一人でも多くの人たちにこの映画を見てほしいと願う。そして自分自身に問いかけてほしい。民主主義の根幹が自国も含めてあらゆる世界の地域で揺るがされようとしているこの時に自分は何をしているか? 地球温暖化を食い止められる最後のチャンスの10年間に自分は何をしているか? 高齢者、低所得者、途上国と世界中の弱者が次々と襲われ死んでいくパンデミックの渦中で自分は何をしているのか? 

僕には小学生の娘がいる。身近にいる未来の存在だ。彼女が大人になった時、自分は2021年に何をしていたのか、ちゃんと目を見てきちんと答えられるだろうか? 映画館の座席で震えていた中学一年生の過去の自分が今、問いかけている。

 

 

今週の1本

The China Syndrome
(邦題: チャイナ・シンドローム)

公開: 1979年
監督: ジェームズ・ブリッジス
音楽: スティーブン・ビショップ
出演: ジェーン・フォンダ、ジャック・レモン、マイケル・ダグラス
配信: Amazon Prime、You Tube(有料)他
原子力発電所事故を闇に葬ろうとする勢力に対して、ジャーナリストらが真相を明らかにしようと対決する社会派サスペンス作品。

 

 

 

 

 

鈴木やす

映画監督、俳優。1991年来米。
ダンサーとして活動後、「ニューヨーク・ジャパン・シネフェスト」設立。
短編映画「Radius Squared Times Heart」(2009年)で、マンハッタン映画祭の最優秀コメディー短編賞を受賞。
短編映画「The Apologizers」(19年)は、クイーンズ国際映画祭の最優秀短編脚本賞を受賞。
俳優としての出演作に、ドラマ「Daredevil」(15〜18年)、「The Blacklist」(13年〜)、映画「プッチーニ・フォー・ビギナーズ」(08年)など。
現在は初の長編監督作品「The Apologizers」に向けて準備中。
facebook.com/theapologizers

 

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