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映画監督・鈴木やすさんが、思い出の映画作品を、鑑賞当時の思い出を絡めてゆったり紹介します。
2回目はフランス・ミュージカル映画の名作だ。ミュージカル全盛のハリウッド映画が次第に廃れてきた頃に、その影響を受けて誕生した作品だが、そこはフランス映画である。舞台になる街、シェルブールはいつもどんより曇り空でショボショボと雨が降り、ミシェル・ルグランの旋律も美しくもしっとりした悲しみに満ちている。せりふの一切ない全編歌唱のオペラスタイルのミュージカル映画は当時画期的であったそうだ。
映画監督の色へのこだわり
注目して欲しいのは60年代のフランスのファッションと、ジャック・ドゥミ監督がこだわり抜いたビビッドな色使い。今は劇場公開映画も大半はHDビデオで撮影するが、当時はもちろんフィルムで撮影していた。
フィルム映画の宿命として、長い年月の間にプリントした色彩は少しずつ色あせていってしまう。それを知っていたドゥミ監督は、色があせていないうちにわざわざ白黒フィルムのネガティブに黄、青、赤の三原色に映画を色彩分解して保存した。白黒フィルムのネガは色あせしないからだ。
そのかいあって2004年には、監督の妻で映画監督のアニエス・バルダがこの三原色のフィルムを掛け合わせて、1964年公開当時のオリジナルの色使いに最も近い復刻版「シェルブールの雨傘」を完成させた。フィルムメーカーの映像に対する愛情とこだわりとはそういうものなのだ。
最近の傾向として大手映画配給会社が劇場公開をしないままストリーミング公開に踏み切る決定が相次ぎ、映画館での映画の鑑賞がどんどん軽んじられていっている。もちろんコロナ禍の映画館の閉鎖では致し方ないことではある。問題は一般家庭のテレビモニターでの映画鑑賞でオリジナルの色彩の彩度に気を使う観客がほとんどいないことである。マツコ・デラックスの番組を見た同じサチュレーション(彩度)のセッティングで、「シェルブールの雨傘」を見られたらドゥミ監督も泣いているんではないか。(ちなみに僕はマツコさん好きです)。
今のテレビモニターにはほとんど映画用のカラー設定があるので、皆さんもストリーミングで映画を見るときはちょっとだけカラー設定をいじって欲しい。
大女優のオーラ
若き日のカトリーヌ・ドヌーブがめっちゃんこ奇麗だ(興奮すると名古屋弁になってしまう)。彼女はインタビューで男性の好みを聞かれたとき「殿方は美しいだけで結構じゃございませんこと」と答えたそうだ。もう地位も名誉も富も美貌も全て持ち合わせているので男に求めるのは美貌だけ。さすがフランスの大女優である。男が言ったら袋叩きにあう暴言でも、気品と自信に溢れた言葉に聞こえてしまうからすごい。
日本を代表する映画監督になった是枝裕和監督とタッグを組んだ最新作「The Truth(真実)」も今HBO Maxで配信されているので、2本を見比べて一人の女優の人間として芸術家としての成長を見るのも素晴らしいだろう。
今週の1本
The Umbrellas of Cherbourg
(邦題:シェルブールの雨傘)
公開: 1964年
監督: ジャック・ドゥミ
音楽: ミシェル・ルグラン
出演: カトリーヌ・ドヌーブ、ニーノ・カステルヌオーボ
配信: Amazon Prime、Apple TV他
フランスのシェルブールを舞台に、雨傘屋の娘と自動車修理工の青年の悲恋を描くミュージカル映画。
鈴木やす
映画監督、俳優。1991年来米。
ダンサーとして活動後、「ニューヨーク・ジャパン・シネフェスト」設立。
短編映画「Radius Squared Times Heart」(2009年)で、マンハッタン映画祭の最優秀コメディー短編賞を受賞。
短編映画「The Apologizers」(19年)は、クイーンズ国際映画祭の最優秀短編脚本賞を受賞。
俳優としての出演作に、ドラマ「Daredevil」(15〜18年)、「The Blacklist」(13年〜)、映画「プッチーニ・フォー・ビギナーズ」(08年)など。
現在は初の長編監督作品「The Apologizers」に向けて準備中。
facebook.com/theapologizers
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