レトロ作品 まったりレビュー

今週の1本 Once Upon A Time in the West

映画監督・鈴木やすさんが、思い出の映画作品を、鑑賞当時の思い出を絡めてゆったり紹介します。


クチン接種もスピードアップして、パンデミックの出口がようやく見えてきた。最新のストリーミングもいいけれど、この機会に、知ってはいるけれどまだ見たことのない過去の名作を見てみようじゃないか。最近のお気に入りの映画の数々にどれだけ影響を与えているか分かり、より一層楽しめるだろう。

第1回目は1950年代〜60年代にかけて数多く制作されたイタリア製西部劇、マカロニ・ウェスタン(米国ではスパゲティ・ウェスタン)の最高傑作のひとつである。3時間に及ぶ超大作だが、すばらしい映像美と共に注目して欲しいのはこの映画のペースである。チャールズ・ブロンソンがサロンの反対側に居座る敵役のヘンリー・フォンダに向かって、コツ、コツとブーツの足音を響かせながらゆっくりと歩いていく、それをカメラが実際のスピードでゆっくりと、サロンの端から端までドリー(カメラを乗せる小型の台車)で移動して撮影する。

ハリウッド映画では絶対にできないスローな演出と編集である。しかしその演出から、開拓時代の無法地帯を銃を腰に下げ闊歩(かっぽ)した男たちの持つテンション、暗黙のルール、暴力に対する哲学が、じっくりと観客に伝わってくる。

チャールズ・ブロンソンの台詞のないクローズアップに、カメラは何秒間も微動だにしない。その映像はどんなすばらしいダイアローグよりも、主人公の心境を語りかけてくる。

 

「マンダム」な男の素顔

チャールズ・ブロンソンといえば、僕の世代で子供の頃、あごをさすりながら「う〜ん、マンダム」と渋い声を出そうとした記憶のない日本人の男の子はいないだろう。あの70年代に大ヒットしたコマーシャルは、若き日の大林宣彦監督(※)が演出したそうだ。

これを書くに当たってブロンソンの経歴を調べてみたら、彼はなんと第二次大戦中はB—29爆撃機の砲手としてグアムに駐屯して、戦闘が激化した末期には計25回にわたって、日本の街に焼夷弾を落とした飛行に参加していたそうである。70年代に彼の映画に夢中になっていた当時の日本人はそれを知っていたのだろうか? 語弊を恐れずに言えばなんだかすてきな話でもある。

かつて日本に爆弾を落としていた元敵兵に対して、「もう戦争は終わったのだから」とムービースターとして彼を受け入れる心の広さと寛容性があったかどうかは分からない。でも、お互いをズタズタに傷つけあって分断された現在のアメリカ社会が、一日も早く70年代の日本人とチャールズ・ブロンソンのような、お互いを癒やす事ができる大人の関係になることを心から願ってやまない。

(※)映画監督。代表作に「時をかける少女(1983年)」「海辺の映画館—キネマの玉手箱(2020年)」。20年没。

 

 

今週の1本
Once Upon A Time in the West
(邦題:ウェスタン)

公開: 1968年
監督: セルジオ・レオーネ
音楽: エンニオ・モリコーネ
主演: チャールズ・ブロンソン、ヘンリー・フォンダ、クラウディア・カルディナーレ
配信: Amazon Prime、YouTube(有料)

 

 

 

 

鈴木やす

映画監督、俳優。1991年来米。
ダンサーとして活動後、「ニューヨーク・ジャパン・シネフェスト」設立。
短編映画「Radius Squared Times Heart」(2009年)で、マンハッタン映画祭の最優秀コメディー短編賞を受賞。
短編映画「The Apologizers」(19年)は、クイーンズ国際映画祭の最優秀短編脚本賞を受賞。
俳優としての出演作に、ドラマ「Daredevil」(15〜18年)、「The Blacklist」(13年〜)、映画「プッチーニ・フォー・ビギナーズ」(08年)など。
現在は初の長編監督作品「The Apologizers」に向けて準備中。
facebook.com/theapologizers

 

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