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大谷翔平選手の一挙手一投足から目が離せない。スポーツ報道でLAドジャースの名前を見ない日はない。5月1日現在の勝率・621でナ・リーグ西部地区トップ。そのドジャースが、5月末には対NYメッツとの3連戦、6月には対NYヤンキースとの交流戦で当地にやって来る。NYジャピオン読者としては憎き敵軍なるも大谷選手の活躍に胸が熱くなる複雑な心境。だが、LAドジャースの「旧姓」はブルックリン。昔はニューヨークのチームだったのだ。(文・取材/中村英雄)
本当に強かった地元チーム栄光の10年間
ドジャースは1883年にブルックリン区で創立した歴史あるチームだが、戦前は59年間でリーグ優勝6回程度のパッとしないチームであった。ところが1947年から57年の間に急速に躍進。10年間で6回のリーグ優勝と1回のワールドシリーズ優勝を果たしている。
黒人初のメジャーリーガー
その理由の一つが、メジャーリーグは47年に入団した初の黒人選手ジャッキー・ロビンソンの活躍だ。ジョージア州で黒人奴隷の孫として育ったロビンソンは、類まれな身体能力を生かして、UCLAに進学。陸上、バスケ、フットボールをマルチにこなした上、知的な性格も好かれたが人種差別の壁が厚くなかなか大成できなかった。戦後になると野球に注力。ニグロリーグで大活躍した後、当時のドジャース会長ブランチ・リッキーに惚れ込まれる。白人至上主義が根強かった球界からの嵐のような批判や中傷を受けながらも、47年4月15日にメジャー初の黒人選手として本拠地ブルックリン区の開幕戦でデビュー。
当日のエベッツ・フィールドの集客2万6623人のうち1万4000人が黒人だったというから、差別撤廃の期待がいかに彼にかけられていたかが想像できる。ロビンソンは一塁手として打率・297、12本塁打、48打点、29盗塁という成績を残してチームのリーグ優勝にも貢献し、同年より制定された新人王を受賞した。ロビンソンフィーバーでドジャースはにわかに活気づき、翌年以降ロイ・キャンパネラ、ドン・ニューマンらの黒人選手が続々入団。彼らを歓迎したピーウィー・リースら白人チームメートの活躍、肌の色を超えた球団の一体感がドジャースの魅力となっても人気が急上昇したため、他球団も続々追従。MLBでの差別廃止の勢いに火がついた。
地元密着型球団
ドジャースのもう一つの特色は地元ファンを大切にしたことだ。黄金時代から70年。当時を知る人はほとんど物故してる。
2003年に『最後のいいシーズン』というブルックリン時代のドジャース史を書いたマイケル・シャピロ氏によれば「球団に都市名ではなく地域名がついていたMLBチームは他にない」とのこと。「私は生まれも育ちもブルックリン区で、ドジャースの試合こそ見ていませんが、家族は全員熱狂的なドジャースファンでした。ワールドシリーズ優勝の時は『我らが、私らが、勝ったんだ』と大騒ぎしたと母が述懐していました。当時は、野球シーズン中の半年はドジャースの話で持ちきり。見知らぬ同志でもドジャースで会話が始まるといった感じでした。主力選手のほとんどがブルックリン区に住んでいたので『地元チーム』としての親近感はより一層高かったです」と同氏は10年のラジオインタビューで答えている。
今も続くドジャース・ロス
そんなドジャースが1956年のワールドシリーズで、ヤンキース相手に善戦したにもかかわらず、翌年、突然、ロサンゼルスへの移転を決定。ブルックリン区に衝撃が走った。当時の球団オーナー、ウォルター・オマリーは、ダースベーダー級の極悪人となり、本拠地の最終戦の観客はわずか6700人だった。球場の老朽化や駐車場の不足、航空機の発達で米国全土での試合展開が容易になったことなど社会経済的理由はたくさんある。だが、ブルックリンっ子の恨みはたやすく癒えなかった。シャピロ氏は言う。「ドジャースがいてくれたら、ブルックリン区は別の世界になっていた。もっと発展していただろうし、60~90年代のあの荒廃ぶりもなかっただろう。でも『ドジャースロス』で一番悔しいのは街の一体化が薄くなったことですよ」
(参考:M i c h e a l S h a p i ro “What’s the Dodgers Meant to Brooklyn” WNYC 2010 Jul 26 / wnyc.org)
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