プロスポーツから見る経営学

第89回 国際新試合の舞台裏

経済的観点からみる親善試合のマッチメイク

メジャーリーグサッカー(MLS)のインテル・マイアミFCはリオネル・メッシ選手など多くのスター選手を擁することで昨年より注目を浴びてきました。その影響もあり、今冬国際ツアーを実施しましたが、残念ながら、一部で不満が出たニュースを目の当たりにしました。このようなツアーや国際新試合を開催する際、FIFAマッチエージェントが関与することが多く、少し解説をしたいと考えます。

FIFAマッチエージェントの主な役割は、手頃な価格で普段は観ることが出来ない国際試合を世界中のファンに提供したいと考えるプロモーターのために海外よりチームを招聘する交渉を行うことです。

この目標を達成するために、私たちは選手たちの健康とパフォーマンスを最優先に考え、同時にファンに公平で価値ある体験を提供することを心がけています。しかし、この目標を実現する過程には、プロモーターが取り組むべきいくつかの課題が存在します。

国際ツアーの予算策定

まず、国際試合の組織と調整において、ゲームのストーリー・意義に焦点を当てます。これには、なぜ特定のチームがツアーを行い、なぜそのチームが特定の相手と対戦するのかという背景が含まれます。また、そのストーリー・意義に沿ってどこのスタジアムで開催するか、観客動員予測を行い、それに連動してチケットの価格設定を検討します。加えて可能であれば、スポンサーや放送契約の獲得も検討します。これらの収入予測の合計が国際試合を組織する際の重要な考慮事項になります。この合計値から試合の運営費、マーケティング・プロモーション費、諸経費、そしてチームを招待するための予算を組まないといけません。

チームを招待する予算には、出演費はもちろんのこと、移動の飛行機代、滞在する際のホテル代、食事代、滞在期間中のトレーニング費用、国内での移動費なども含まれてきます。当然、人気のチームであればあるほど、これらの支出は膨れることになり、これらが全て予算内に収まるためには周到な計画と、各種交渉が必要になります。最も大きな交渉は招待をするチームの「出演費」になります。そして交渉の末、支出が減らせない場合には収入を増やすしかなくなってしまうのですが、その場合チケット代が高くなってしまうことが多く、ここのバランスが非常に求められる仕事となります。

プロモーターの課題

スター選手のプロモーションは、ファンの関心を引きつける重要な要素ですが、これにはリスクが伴います。長いシーズンの後で選手たちが休息を必要とすること、怪我を抱えている選手がいること、そして全てのフレンドリーマッチにリオネル・メッシやキリアン・ムバッペのようなスタープレイヤーが出場できない可能性があることは、プロモーターたちが直面する現実です。代表チームに招聘されるような選手は休息を取らないといけない期間がFIFAワールドカップなどの直後には義務付けられています。昨夏、日本でのツアーでパリ・サンジェルマン(PSG)のムバッペ選手の登場を楽しみにしていたファンが多くいた中で、彼を起用できなかった事例は、関係各所で大変であっただろうと察するものでした。

ファンの期待とチケット価格は、注意深く管理する必要がある課題です。高価なチケットを購入したファンが、期待していたスター選手が出場しない場合に感じるネガティブな感情は、大きな懸念事項です。そのため、チケットが高価であると受け取られた場合、チケット価格の予測が外れたのか、あるいは招待するチームとの出演費を含む諸々の交渉が予想通りに進まなかったのかを慎重に分析する必要があります。なぜなら先述した通り、ここのバランスが非常に難しいからです。

最終的に、国際親善試合の目標は、スポーツの美しさを世界中のファンに届けることにあります。普段観ることができないような対戦や、中々直に触れることができない海外チームを間近で観たり、触れたりすることができる素晴らしいものなのです。その中心にスター選手の魅力があることは否定できないものの、ゲームそのものの物語などもファンを惹きつける最終的な要素であるように心がけることも非常に重要な要素となります。これらの要素のバランスを見つけることが大切であり、我々も引き続きエキサイティングで価値ある国際試合を作り出すことに全力を尽くしていきたいと感じました。

 

中村武彦

青山学院大学法学部卒業後、NECに 入社。 マサチューセッツ州立大学アマースト校スポーツマネジメント修士課程修了。メジャーリーグサッカー(MLS)、FCバルセロナなどの国際部を経て、スペインISDE法科学院修了。FIFAマッチエージェント資格取得。2015年にBLUE UNITED CORPORATIONを設立。東京大学社会戦略工学部共同研究員や、青山学院大学地球社会共生学部非常勤講師なども務める。

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