サミュエル・&#
困難に立ち向かい、今を全力で生きる日本人ビジネスパーソン。名刺交換しただけでは見えてこない、彼らの「仕事の流儀」を取材します。
色鮮やかな布のコラージュとロープのインスタレーション作品で、見る人の目を惹きつける作品を生み出し続けるアーティスト、毛利友さん。近年はMTAのバスデポのエントランスデザインやガバナーズアイランドでの壁画展示など、パブリックアートでも大きな活躍を見せている。そんな彼女はただ一途に芸術の道を歩んできたわけではない。11年という長い年月、報道という全く芸術とは異なる世界で生きてきた異色の経歴を持つ。
「世界」を肌で感じた報道機関勤務
幼少期から絵が得意だった毛利さんは都立芸術高校に進み、在学中カリフォルニアで1年間の交換留学を経験する。当時から日本の男性優位の風土に違和感を感じていた彼女は、米国の人権運動の歴史や、不平等な事に対し声をあげる人々のエネルギーに強く憧れ、キング牧師の生誕地であるジョージア州のアトランタ美術大学へ進学。しかしその生活は厳しく、「食費を月25ドルで済ませていた時期もありました。3年生の時、父が心臓病の手術をし、芸術の道で十分な収入を得ることは厳しいと判断し、確実に就職できるようビデオ・デザインに専攻を変えました」と当時を振り返った。卒業後、大手メディアCNNに就職。1995年にウェブニュースを開設した同社でウェブデザイナーとしてキャリアを積み、27歳にして管理職であるアートディレクターに抜擢され、報道の内側から世界情勢を見つめる日々を送る。「ニュースの大半は災害や紛争など苦しんでいる人々の今なんですよね。慣れたらだいぶ客観的になれましたが、働き初めの頃と9.11はきつかったです」
父の死が導いたアートへの再挑戦
CNN勤務時代はアートとは距離を置いていた毛利さん。あえて思い出さないようにしている「最愛の元カレ」のような存在だったとか。そんな彼女の背中を押したのは「父の死」だった。「父は、退職してこれから人生を楽しもうとしていた矢先に亡くなりました。悔しかったと思います。私は、絵が描きたかったとぼやきながら人生が終わるのは嫌だと思い、制作環境を整えるところから始め、9カ月後には仕事を辞めました」と語る毛利さんは、その後アートから離れていた期間に溜め込んでいたイメージを一つ一つ解放するような気持ちで制作活動に没頭したそうだ。
報道機関での経験は彼女の現在の制作活動に多大な影響を及ぼしているという。また多様な人種宗教文化が共存する街で多方面から見ることを培われてきた彼女だからこそ発信できるものがある。彼女の作品に使われるロープは、世界中から集めたさまざまな布を縫い合わせた二本の紐を捻り、その二つの相反する力で強度が増すという。「身近にヘイトクライムが多発するようになってから特にちゃんと繋がれていないコミュニティーの弱さを感じ、個々を尊重しながらもしっかり繋がりたい、繋がってほしい、という祈りのようなものを編み込んでいます」
現在は、展示会の開催のほかにハーレムのChildren’s Art Carnivalでワークショップを行うなど人と繋がる場の開催にも力を入れている毛利さん。「アートは会話を触発し、作ることで心が落ち着いたりもします。ご近所さんで気楽にワイワイやっています。気軽に遊びに来てください」と話してくれた。
毛利友さん
アーティスト
来米年: 1989年
出身地: 兵庫県大阪府四條畷市
好きなもの・こと:フォー、脳科学
特技: 節約料理、玉子焼き
東京都立芸術高校を卒業後、アトランタ美術大学に入学。卒業後、CNNでウェブデザイナーとしてキャリアを積むが、2011年再度アートの道を目指す。光のないところに光や暖かさを注ぐ、布を用いた壁絵とロープのインスタレーション作品を制作。
tomomoriart.com/Instagram: @tomomoriart