巻頭特集

『くるみ割り人形』を観に行こう!

ホリデーシーズンの定番といえば、『くるみ割り人形』。なぜ全米で、この作品が定着しているのか? 経済効果、出演者インタビューを交え、さまざまな角度から掘り下げて紹介していく。(取材・文/音成映舞)


くるみ割り人形は、いかにして全米で定着したのか

ピョートル・イリイチ・チャイコフスキーの三大バレエの一つとして知られる『くるみ割り人形』。1816年、ドイツ人のE・T・A・ホフマンが出版した童話『くるみ割り人形とねずみの王様』が原作だ。それを『三銃士』で知られるフランスのアレクサンドル・デュマ・ペールが『はしばみ割り物語』として翻案したものでは、物語は子供たちがより読みやすい作風に仕上がっている。ロシア帝国バレエ団の首席バレエマスターで「バレエの父」と呼ばれるマリウス・プティパが、デュマ・ペール版を気に入りバレエ化。プティパはチャイコフスキーに作曲を依頼したが、この『くるみ割り人形』がチャイコフスキーにとって、最後のバレエ作品となった。

この作品は1892年12月にロシアのサンクトペテルブルクで初演されたが、批評家の評判は芳しくなく、初演は散々だったという。その後、さまざまな振付師や演出家により改訂が行われる。しかし、実際に人気作品となるには、1954年まで待たなければならなかった。

では、なぜここまで定番の冬の作品として人気になったのか。それは、ニューヨーク・シティー・バレエ(NYCB)の創設者であるジョージ・バランシンが振付したバージョンが、54年2月に公演したことがきっかけとなる。

バレエ団にとって年間興行の柱

今年75周年を迎えるNYCB。創設者のジョージ・バランシンの描く『くるみ割り人形』では、ホフマンの原作を翻訳したデュマ・ペール版に基づいている。ホリデーシーズンの定番として毎年上演されるようになった彼の功績は、全米のバレエ団に大きな影響を及ぼし、その多くはバランシン版を採用している。

主人公の名前がクララなのかマリーなのかは、そのバレエ団によって異なり、ホフマンの原作を翻訳したデュマ・ペール版か、または前半で紹介したマリウス・プティパ版かにもよる。

例えば、主人公の名前もNYCBではマリーだが、ボストンバレエ団ではクララとなっている。ストーリーもおおむね同じだが、どれをベースにしているかで多少変わってくる。また、斬新的な解釈や振付を起用していたり、豪華な衣装、舞台装置など、壮大な演出を加えたりすることによって、それぞれのバレエ団ごとに特長を表現している。

実際『くるみ割り人形』は、バレエ団の年間の興行収入の半分近くを得ている。その人気の秘密は、やはり子供の出演だろう。下の表を見ても、他の作品に比べ子供の出演率が圧倒的に高い。NYCBの場合、スクール・オブ・アメリカン・バレエ(SAB)の生徒ら125人以上の子供たちを二つのグループに分け、交代で出演させている。8歳から12歳までの子供に制限していることから、毎年多くの子供が役を得るため努力している。

 

初めてバレエに触れる機会として『くるみ割り人形』は親しみやすいストーリーで入門編に最適といえる。約2時間の上演中は子供ならではの予想外のハプニングが起きることもあるが、それもご愛嬌として老若男女問わず楽しめる作品だ。ぜひ今年の冬は、劇場に足を運んで定番のショーを楽しんでほしい。

 

『くるみ割り人形』あらすじ

クリスマス・イブの夜、シュタールバウム家の大広間ではクリスマス・パーティーが催されていた。そこに、父親の友人である人形師のドロッセルマイヤーが現れ、シュタールバウムの娘、マリーに醜いくるみ割り人形を贈った。マリーはその人形を一目で気に入ったが、それを見たマリーの兄、フリッツがその人形を欲しがり奪い合いになってくるみ割り人形は壊れてしまう。

壊れたくるみ割り人形のことが気になり、夜中に広間へ忍び込むマリー。時刻が0時を告げるとマリーの体は人形のように小さくなっていき、どこからともなく現れたねずみの大群が戸棚に仕舞われていたおもちゃの兵隊と戦い始めた。そこへ、くるみ割り人形も兵隊たちの戦いに参戦。くるみ割り人形が窮地に陥ったそのとき、マリーがねずみを倒すのに加勢し勝利を納める。すると、くるみ割り人形は王子の姿に変わり、助けてくれたお礼にマリーをお菓子の国へ連れていく。

(E.T.A.ホフマンの原作、アレクサンドル・デュマ・ペール翻案による)

 

次ページからは、日本人プリンシパルのインタビューや、他州のバレエ団の紹介をしていく。

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