プロスポーツから見る経営学

第85回 レギュラーシーズンとプレーオフ

ファンの関心を引き続けるプレーオフ制度

米国のプロスポーツにおける「プレーオフ」は、他の多くの国々のスポーツリーグとは異なる、非常に独特の制度として知られています。この「プレーオフ」というシステムについて、スポーツに興味のある人なら多くの人が耳にしたことがあるでしょう。しかし、「なぜ米国はプレーオフ制度を採用しているのか? リーグ戦で最も成績が良いチームがそのまま優勝となるのではないのか?」という素朴な疑問を抱く人も少なくないでしょう。

実際、私がこの記事を執筆している現在、メジャーリーグサッカー(MLS)はシーズンのクライマックスを迎え、どのチームがプレーオフに進むのか、非常に注目されています。さらに、世界的な名選手であるリオネル・メッシの動向や、彼が所属するインテル・マイアミの成績も多くのファンの目が注がれています。しかし、彼のチームのプレーオフ進出の可能性は、残念ながらこの時点でなくなってしまいました。高いサラリーを持つスター選手を擁するだけで必ずしも成功するわけではなく、スポーツのビジネス側の複雑さが垣間見えますが、その詳しい話は別の時に触れたいと思います。

昇格・降格の制度を導入する欧州としない米国の違い

世界の多くのスポーツリーグは、レギュラーシーズンの成績だけでチャンピオンを決定します。しかし、米国のプロスポーツでは、プレーオフという制度が広く取り入れられています。

米国のスポーツ界の特徴として、多くのプロリーグが昇格・降格のシステムを採用していないことが挙げられます。例えば、「メジャーリーグベースボール2部」や「ナショナルバスケットボールリーグ2部」というリーグは存在しません。そのようなシステム下のため、成績が中途半端なチームでも、シーズン終了まで熱戦を繰り広げる意欲を持続できるのです。

対照的に、欧州のサッカーリーグのように昇格・降格制度が存在する場合、シーズンの最後の試合まで緊張感が続きます。だが、米国では最下位のチームであっても、そのリーグにとどまることが確定しているため、優勝争いから外れたチームのモチベーションが低下する危険があります。それに伴い、試合への興味や、スタジアムの観客数が減少する可能性も出てくるのです。

レギュラーシーズンの成績だけではチームの価値は決まらない米国プレーオフ制度

この問題を解消するため、米国のスポーツリーグではプレーオフ制度を採用しています。この制度により、ただ単にリーグ戦で良い成績を収めるだけでなく、プレーオフでの勝利も求められます。このシステムによって、シーズン終了間際でもファンの関心が維持され、試合の興奮が保たれるのです。もちろん、昇格・降格の制度が存在するリーグでは、そのリスク自体が試合の魅力を保つ要因となっています。しかし、レギュラーシーズンで好成績を収めたチームがプレーオフで敗退することは、ファンにとっては受け入れがたい結果となる場面もあるかもしれません。そのため、多くのリーグではレギュラーシーズンのトップチームには特別な賞を授与することも行っています。

頻繁に戦うことのないチームとプレーオフで戦う醍醐味

補足として、米国のプロスポーツリーグでは、広大な国土のために各地区ごとにリーグが分けられる点も忘れてはいけません。この結果、シーズン中に全てのチームが頻繁に対戦することは少ないです。

通常、各チームは自らのディビジョン(区分)内での試合の方が他のディビジョンとの試合よりも頻繁に行います。しかし、リーグ内でトップのチーム同士がレギュラーシーズン中に対戦することは保証されておらず、このため、シーズン後半にプレーオフが行われ、各地区の優勝チームや、ワイルドカード(各地区の首位以外で、プレーオフ出場権を与えられるチーム)で選ばれたチームが頂点を争います。

スポーツビジネスとしての視点で考えると、チームがシーズンを通じて高い競争心を保持し、ファンの関心を引き続けることは非常に重要です。この観点からも、プレーオフ制度は非常に効果的な手段と言えるでしょう。

 

中村武彦

青山学院大学法学部卒業後、NECに 入社。 マサチューセッツ州立大学アマースト校スポーツマネジメント修士課程修了。メジャーリーグサッカー(MLS)、FCバルセロナなどの国際部を経て、スペインISDE法科学院修了。FIFAマッチエージェント資格取得。2015年にBLUE UNITED CORPORATIONを設立。東京大学社会戦略工学部共同研究員や、青山学院大学地球社会共生学部非常勤講師なども務める。

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