ハートに刺さるニュース解説

有権者の威力

中絶の権利擁護派が勝利
「もの言う」有権者

米中西部オハイオ州で8月8日、州憲法の改正手続きをより厳しくするかどうかの住民投票が行われ、反対多数で否決された。手続きが可決されていれば、将来的に、同州における人工妊娠中絶の権利を奪う結果になるところだった。このため、中絶を擁護する多数のリベラル派市民が投票に駆けつけ、「中絶擁護派の勝利」(CNN)に終わった。

日本でも3日、岩手県知事選挙で、現職達増拓也(たっそたくや)氏(59)が、与党勢力が推す新人千葉絢子氏(45)=ともに無所属=を破り、岩手県政史上最多となる5選を果たした。与党主導の政策ではなく、「この人の政策がいい」と県民が投票に行った。投票率も56・63%と最低だった前回を上回り、有権者の力を見せつけた。

州憲法の改正めぐり
実は「中絶問題」

オハイオ州での投票結果は、米国民がいかに投票用紙に書かれる内容に目を光らせているかの表れだ。

同州は、人工妊娠中絶の権利を守る方針の州憲法改正案について、11月に投票を実施する予定だった。共和党は今回の住民投票で改憲を困難なものにして阻止し、中絶を全面禁止に持ち込む構えだった。

今回投票にかかった規則改正案は、州の憲法を改正する際の条件を、単純過半数から60%以上に引き上げる「イシュー1」と呼ばれる案。一方で、11月の州憲法改正案は、「生殖の自由に関する基本的な権利」を確立するためのもので、つまり、中絶の権利を女性に委ねる内容だ。これを改正するために60%以上の賛成票を得るのは、中絶の権利を守ろうとする民主党にとってかなりのハードルとなる。

保守は盤石なオハイオ
リベラル市民が奮起

オハイオ州議会の下院は、共和党67議席に対し、民主党32議席。上院は共和党33に対し、民主党7と、保守が盤石な構成だ。「イシュー1」は、中絶を可能にする州憲法改正を「絶対に」無理なものにするための共和党の戦略だった。今回の住民投票は、大統領選挙の年ではないため、投票率が低くなることが見込まれ、そうなれば保守派の有権者が多く投票所に向かい、「イシュー1」は難なく賛成多数で成立する見込みだった。
ところが、結果は賛成42・99%、反対は57・01%と、反対票が大差をつけた。何が起きたのか。
ワシントン・ウィークリーによると、まずリベラル派の市民グループ「One Person One Vote」が、共和党の謀略に気がついた。フランク・ラローズ州務長官(共和党)がある会合で「(イシュー1は)中絶に関するものだ」と、発言したためだ。これを知った同グループは、発言のクリップを3回も繰り返して見せるビデオを作成して拡散し、中絶擁護のリベラル派市民にアピールした。
こうして住民投票は、中絶擁護の民主党と、反対の共和党の「代理戦争」と化した。このため、全米の市民もオハイオ州の両陣営に多額の寄付金を送った。その結果、中絶擁護派の勝利に終わったわけだ。

トランス攻撃が逆効果
避けられない事実

バイデン大統領は住民投票の結果を受けて、「オハイオ州民ははっきりと声を上げ、民主主義が勝利した」とする声明を出した。

報道によると、共和党の住民投票に対する戦略が間違っていた、と指摘する。共和党は、中絶の是非に焦点を当てたのではなくて、テレビCMなどで徹底的にトランスジェンダーの攻撃をした。民主党やリベラル派がトランスの権利を主張すると、子供には悪影響で家庭が崩壊するという論理だ。

一方で、調査によるとトランスの子供は全米に約30万人いる。保守が強い州でもこの事実は避けられない。ピュー・リサーチ・センターによると、2016年に米国人でトランスの知り合いがいる人の割合は30%だった。22年には44%になっている。

共和党が現実を把握していなかったミスもあり、オハイオ州住民投票でリベラル派が勝利した。近くバージニア州でも同様の住民投票がある。「選挙の年」ではなくても投票に行くというものいう有権者の動きに注目が集まっている。

津山恵子

ジャーナリスト。「アエラ」などにニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOなどにインタビュー。近書に「現代アメリカ政治とメディア」(東洋経済新報社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

 

 

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