巻頭特集

進化し続けるトイレの世界

日本が世界に誇る「おもてなし」文化の象徴といえるトイレ。高品質なだけでなく、利便性の面でも多種多様な機能を備え進化し続ける日本のトイレ製品。日米のトイレ事情の違いなど、今号ではさまざまな角度からトイレについて学んでみよう。(取材・文: 音成映舞)


日本と米国のトイレ事情

日本人にとってトイレといえば、清潔で心地良い空間と思われている。駅や公園などの公共施設だけでなく、コンビニエンスストアをはじめ、商業施設にも設置してあり、パウダールームが広く設けられたり、ベビーベッドやおむつ交換台など、乳幼児向け、高齢者や障害のある人が使いやすいよう配慮された多目的トイレの設置も徹底している。しかし、米国に移住してきてトイレの不衛生さや不便さに驚いた人も多いのではないだろうか。日米の違いはあるものの、実は双方共にさまざまな取り組みを続けている。

 

渋谷区では、新たなトイレプロジェクトも始動

2020年から、東京都渋谷区の17カ所にある公共トイレを新たに生まれ変わらせる「THE TOKYO TOILET」というプロジェクトが始まった。同プロジェクトは、渋谷区以外に大和ハウス工業、TOTOが協力している。それぞれのトイレには、世界で活躍する安藤忠雄やNIGO®をはじめ、16人のクリエイターが参画。外観デザインがトイレに見えない個性的なトイレから、内装や機能へのこだわりが徹底されたものまであり話題となった。

また、利用者にとって快適なトイレタイムを提供するために、メンテナンスの点でも1日三回清掃員が通常清掃を行い、1カ月に一回行う定期清掃、年に一回の特別清掃と3種類に分けて行っている。

 

渋谷区東三丁目にある公衆トイレ。

ニューヨークを拠点に活躍する田村奈穂さんがプロダクトデザイナーとして参画している

 

日本人にとって海外のトイレは使いづらい?

その一方、あまりきれいとはいえない米国のトイレは、便座の位置が高い、ウォシュレット機能がない、公衆トイレの少なさなど、日本との違いに困惑する人も多いだろう。唯一利用しやすい飲食店は、利用客以外お断りなところも多い。では、そもそも米国の公衆トイレはなぜ少ないのだろうか。

一番の理由は、やはり犯罪が起こりやすいことを危惧しているからだろう。日本に比べ治安が悪い場所も多く、ホームレスがトイレに入り浸るのを懸念したり、薬物取引の場として利用されることを防ぐためだ。犯罪行為防止のため、トイレのドア下の隙間が大きく開いているのも抑制力があるかは明確ではないが、その一環といえる。日本に比べ、清掃員が巡回している姿も頻繁には見かけない。そして、せっかく設置しても故障が起きたりと修理費も高くつくため、維持管理費が掛かることも公衆トイレの設置がなかなか増えない理由の一つだろう。

 

ブルックリン区にある公衆トイレ

 

ニューヨークの新たな取り組みに期待

2016年、ニューヨーク市は公共の個室トイレを全て、ジェンダーレスにする法案にビル・デブラシオ前市長が署名。20年にはアンドリュー・クオモ前州知事により、州全体で法案が可決され施行された。LGBTQ+へのコミュニティーサポートが先進的なニューヨークならではだろう。

こうした取り組みだけでなく、今年8月に市議会議員のサンディ・ナース氏が「公衆トイレ網の確立と維持」の4カ年計画を提出した。現在、ニューヨーク州公衆トイレは約1100カ所あるが、将来的に3100カ所に増やそうというものだ。

実際に始動した案では、市公園管理局が異なる5区の五つの場所に総額530万ドルを投資し、24年夏までに新たな公衆トイレを設置し稼働を目指しているという。だが、市民だけなく観光客も多いニューヨークにとって、公衆トイレは依然少なく、道のりは決して平坦ではなさそうだ。

次ページでは、知っているようで意外と知らないトイレについて学んでいく。

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