ハートに刺さるニュース解説

起訴と24年選挙

トランプを3度起訴
選挙は未知の領域へ

ドナルド・トランプ前大統領は、過去の大統領として初めて起訴された人物だ。裁判で有罪となれば刑務所に入る罪人になるという意味だ。ところが8月1日、3度も起訴された初の過去の大統領となった。2024年米大統領選挙で、窮地に追い込まれるのかどうかが、裁判の行方によって明らかになる。

首都ワシントンの連邦大陪審による起訴状は、トランプ氏が大統領選での敗北を覆そうと画策し、21年1月6日の連邦議会議事堂襲撃事件を起こした責任があるとした。連邦による刑事事件としての訴追を受けるだけでも2度目となる。捜査は、ジャック・スミス特別検察官が続けてきた。

トランプ氏の起訴を発表するスミス特別検察官(CSpanより)

議会襲撃は「陰謀」
民主主義への攻撃

スミス氏の捜査チームは、トランプ氏が退任した後、機密文書を自宅などに不正に保持し、政府が回収しようとしたのを妨害したとして、同氏を起訴した。

米メディアは今回の起訴内容は、「検察官にとっても国民にとっても重要度が高い」(ウォール・ストリート・ジャーナル=WSJ)としている。民主主義の根幹である「投票」、つまり20年に、米国民や選挙人が投票所に向かい、トランプ氏が敗北した事実を覆そうとした「謀略」と位置付けているからだ。その結果、数千人が議事堂を襲い、当日だけで5人が死亡した。また、スムーズな政権移行の妨害にもなりかねなかった。

トランプ氏は即時、今回の起訴はバイデン大統領が24年選挙で勝とうという政治的動機に基づいていると主張した。

「これは24年大統領選挙への介入を狙い、バイデン犯罪一家と、その攻撃の手段と化した司法省が続けている情けない試みの腐敗した最新のチャプターにほかならない。この選挙ではトランプ(前)大統領が他を大きく引き離して文句なしの最有力候補だ」(トランプ氏)

共和党候補でトップ
トランプは現職大統領

トランプ氏の多くの支持者は、同氏が今でも大統領であると信じている。世論調査では、共和党の大統領候補として有権者の半数以上がトランプ氏を支持している。支援者に届く日々のメールの発信元は「第45代米大統領ドナルド・トランプ」。バイデン氏は第46代大統領だが、彼の勝利を信じられない人々にはトランプ氏が現職であるかのような錯覚を起こさせる。

こうした背景があって、トランプ氏は選挙戦の「最有力候補」として集会などを続けている。

一方で、WSJなどによると、弁護士など法廷闘争のための資金が枯渇しかねないという。この点は、支援者も懸念しており、それがさらに怒りを煽って、トランプ氏を熱狂的に支持することにもなる。

7月31日に公表されたデータによると、トランプ氏の政治活動委員会(PAC)である「セーブ・アメリカ」の銀行残高は400万ドル未満。1年前は1億ドル超あった。同PACは、訴訟費用の大半を賄ってきた。また、23年の日常経費の90%近くに相当する2000万ドル超が法律関連費用に充てられているという。

裁判期日を来年に
選挙戦への影響最小に

それだけの費用を使って、トランプ氏の弁護団が日々戦っているのは、それぞれの起訴案件について、裁判が始まる期日をなるべく遅らせることだ。来年以降となれば、盛り上がる選挙戦の間に有罪となって「罪人」となるのを避けられる可能性があるためだ。

アメリカ合衆国憲法は、有罪となった人物が大統領になることを想定していなかった。このため、トランプ氏はたとえ有罪となっても当選しさえすれば、25年1月にホワイトハウス入りを果たすことができる。同氏とともに起訴されて有罪となった部下らをも恩赦によって解放することができる。

来年の大統領選は、民主党からはバイデン氏が立候補し、最有力とされている。共和党からは12人が出馬表明したが、トランプ氏への支持は群を抜いている。

世界で最も民主主義が進んでいるとみなされている米国で、果たして罪人が当選を果たすことができるのだろうか。来年の大統領選は、米国民と世界が見守る中、未知の領域に突入する。

津山恵子

ジャーナリスト。「アエラ」などにニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOなどにインタビュー。近書に「現代アメリカ政治とメディア」(東洋経済新報社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

 

 

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