プロスポーツから見る経営学

第82回 メッシ選手、米国で次なる挑戦

メッシ選手の移籍と新たなビジネスモデル

世界のサッカー界を驚愕させたニュースが飛び込んできました。アルゼンチン代表のリオネル・メッシ選手(以下:メッシ選手)がメジャーリーグサッカー(MLS)のインテル・マイアミに入団を発表しました。サウジアラビアをはじめ各方面から高額のオファーがあったにも関わらず、メッシ選手がマイアミを選んだ背後の理由について探っていきましょう。

ビジネスオポチュニティー

今回の移籍には一見すると単なる給与面での優遇だけではない、複数の魅力的な条件が含まれています。特に、MLSではお給料には制限がかかるサラリーキャップというルールがあります。

そこで、まず一つ目に挙げられるのが、放映権に関わるビジネス。メッシ選手がMLSとアップル社の10年間で合計約3400億円の放映権に関するビジネスの一部を受け取ることが契約に含まれていました。これは彼の影響力をフルに活用した新たなビジネスモデルで、単なる選手以上の役割をメッシ選手に求めていると言えるでしょう。このような提案は米国におけるプロスポーツ界では前例がないものです。

続いて二つ目の条件は、MLSと長年パートナーのアディダス社とのビジネス関連です。メッシ選手がアディダス社より、関連するビジネスの一部を受け取ることができるという点で、彼が選手としてだけではなく、ビジネスパートナーとしても重要な位置づけになります。これもナイキ社とマイケル・ジョーダン氏の契約以外には類似したものは存在しません。この二つの条件により、メッシ選手の収入源はフィールド内だけでなく、多岐に広がることで、彼のキャリア全体をさらに充実させることが期待されます。

引退後のクラブ保有

メッシ選手が、マイアミを選んだ第三の要素は、引退後の人生設計に関わる部分でしょう。彼が引退後にMLSのクラブを保有することを望んでいると言われており、その際に特別なディスカウントが付与されるという点も大きな魅力となったでしょう。選手生活が終わった後の次のステップとして、彼自身がオーナーとなるという道が開かれたのです。

最近、マイアミに到着したメッシ選手と彼の家族が地元のスーパーで買い物をしている様子がSNSなどで見られましたが、このように自由に生活を送れるのも米国ならではないでしょうか? とてもバルセロナやパリではこのような自由は享受できるものではありませんでした。

ベッカムの影響

メッシ選手をマイアミへと導いた要素の一つとして、デビッド・ベッカム氏の存在があります。彼はメッシが受けたオファーと似た形で、2007年にMLSに移籍。引退後にマイアミのオーナーとなり、彼自身がMLSでの成功を体現しています。また、気持ちよくプレーしてもらいたいために、メッシ選手と幼い頃から一緒にバルセロナやスペイン代表でプレーを共にしてきたセルヒオ・ブスケツ選手ともマイアミは契約をしました。他にも今期でバルセロナを退団したジョルディ・アルバ選手などメッシ選手の旧友たちともベッカム氏は契約を検討していると囁かれています。

結論

この一連の動きは、サッカー界に新たな風を吹き込んでいます。単に高額の契約金を提示するだけでなく、選手個々のビジネスや引退後の計画を含む全体的なパッケージが重要であることを、世の中に示しました。この新たなビジネスモデルは、今後のプロスポーツ界に大きな影響を与えることでしょう。

既に巷ではNBAのスーパースターであるレブロン・ジェイムズ選手などが今後契約交渉をする際に似たようなことを要求するのではないかとも言われております。ただ、メッシ選手ほどグローバルに影響力があるスター選手は中々存在するものではなく、今回のMLSへのメッシ選手の移籍は異例中の異例と言っても過言ではありません。

以上が、マイアミに入団した理由と考察の全容でした。彼のこれからの活躍と、新たなパートナーシップがもたらすインパクトに期待が寄せられています。

 

 

中村武彦

青山学院大学法学部卒業後、NECに 入社。 マサチューセッツ州立大学アマースト校スポーツマネジメント修士課程修了。メジャーリーグサッカー(MLS)、FCバルセロナなどの国際部を経て、スペインISDE法科学院修了。FIFAマッチエージェント資格取得。2015年にBLUE UNITED CORPORATIONを設立。東京大学社会戦略工学部共同研究員や、青山学院大学地球社会共生学部非常勤講師なども務める。

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