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マスクが新メディア王
大統領選にも影響
米メディア界に大きな変化が訪れている。ツイッターを買収したイーロン・マスク氏が、存在感を増している。注目の共和党大統領候補を後押しし、2024年大統領選にも影響力を及ぼす可能性が高まっている。
マスク氏は、電気自動車(EV)大手テスラの最高経営責任者(CEO)だが昨年10月、ツイッターを突然買収した。さらに、5月24日午後6時、ツイッターを使って、フロリダ州知事のロン・デサンティス氏が大統領選に立候補する発表をポストした。出馬表明は、支持者の集会やあるいはオンラインビデオで発表するケースが多いが、ソーシャルメディアのツイッターで発表するのは、米国では初めてのことだ。
伝統メディアは衝撃
マスク氏が台頭
「候補者には集会やオンラインビデオの公開を期待していた大手メディアは、ショックを受けた。しかも、メディア界とは無縁のマスク氏が出馬表明をサポートし、ツイッターが政治的に保守派を支持する印象を植え付けた。
表明は、ツイッターのラジオのような音声機能「スペース」を利用した。「デサンティス知事を迎えられて光栄です」とマスク氏が切り出したが、何度も中断し、10分以上の空白もあった。新しい試みで躓き、ツイッター内の技術的サポートに対する脆弱さを浮き彫りにした。
しかし、マスク氏は、「誰かが国民に語りかけ、世界中の人々が聞ける仕組みは(かつて)なかった。とても画期的だ」と主張。デサンティス氏も「ツイッターは表現の自由の提唱者の手にわたった。これは我が国の将来にとってとても重要だ」と語った。まるで、保守派が表現の自由を主張し、ツイッターをその舞台にしているかのようだ。
ルパートからイーロン
FOXにも異変
保守派のメディア王といえば、ルパート・マードック氏(92)がいる。オーストラリア生まれで、英米の新聞・テレビを次々に買収し、世界最大のメディア帝国を作り上げた。しかし、最近は政界に影響を及ぼすような表舞台で見かけることはない。代わりに、伝統的なメディアではなく、ソーシャルメディアを手中にしたマスク氏が急浮上している。
メディア界をめぐっては、ほかにも大きな変化が見られる。テレビでは強く保守派を支持し、影響力があるFOXニュースだが4月下旬、看板番組の論客タッカー・カールソン氏を退局させた。
「別々の道を行く」として、降板の理由は明らかにしていない。夜8時からの彼の番組を仕切り、ケーブルテレビニュース番組で最高の視聴者を集めていた。ドナルド・トランプ前大統領を始め、共和党の大物にも気に入られていたが、突然の退場。このため、FOXコーポレーションの株価は一時5%を超えて下落した。
カールソン氏の時代が終わり、保守派市民の目は、ツイッターを支配するマスク氏に向かっている。
CNNも有名人解雇
大統領選も激変へ
視聴者数では、FOXニュースやMSNBCに大きく差を付けられているCNNも4月下旬、有名アンカー、ドン・レモン氏を解雇した。
レモン氏は今年2月、共和党から大統領選に出馬を発表したニッキー・ヘイリー元国連大使(51)について「全盛期の年齢とは言えない」と番組で発言し批判された。レモン氏はすぐに謝罪している。しかし、レモン氏の降板も理由は明らかにされていない。
レモン氏は黒人で、番組を通じて黒人差別に抵抗する強いメッセージを発信していた。その一方で、社内女性社員に対し、差別的な行動があったことも報道されている。レモン氏はこれを否定している。
24年大統領選挙を前に、これまで影響力があった伝統的メディアで、有名アンカーらが去った。影響力を維持できるのかが問われている。その一方で、ツイッターをうまく利用して、マスク氏という部外者が、保守派のメディア王として台頭してきている。
また、24年選挙は、ChatGPTなどにみられるAI(人工知能)が初めて利用される選挙となる。すでに様々な研究に巨額の投資が行われている。メディアの様変わりやAIで、4年に一度の「お祭り」とされる大統領選挙も激変しそうだ。
津山恵子
ジャーナリスト。
「アエラ」などにニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。
フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOなどにインタビュー。
近書に「現代アメリカ政治とメディア」(東洋経済新報社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。