プロスポーツから見る経営学

第 76 回スポーツチームの買収ビジネス

スポーツビジネス産業とその変革期 

最近、 プロスポーツチームを買収したり、 売却するニュースが盛んに流れていると思います。 私もセガ社が発売している人気サッカークラブ経営シミュ レーションゲームシリーズの 『プロサッカークラブをつくろう!』 (通称はサカつく) は好きでよくプレーをした時期がありました。 現在は、 プ ロ のeスポーツチーム「BlueUnitedeFC」 のオーナーを務めておりますが、 なぜものすごい金額のプロスポーツチームのオーナーに皆なろうとしているのでしょうか?英化学大手イネオスの創業者のジム ・ ラトクリフ氏が、 英国マンチェ スター ・ ユナイテッドの買収に名乗り上げていることが報道されました。

活発化するスポーツチームへの事業参入

現在オーナーのグレーザー一 族が求める売却額は 50億ポンド (約7900億円) 以上と言われており、とても大きな金額となります。 日本でもこの動きはここ数年活発化しており、有名なのは2019年にメルカリが鹿島アントラーズの経営権を取得したことは読者の皆様にとっ ても記憶に新しいと思います。昨年の末にはDeNAがSC相模原を運営する 「スポーツクラブ相模原」 の連結子会社化を発表したことで、 同社にとっ ては、 横浜DeNAベイスターズ、 川崎ブレイブサンダースに次ぐ、 神奈川県の政令市で3つめになるプロスポーツ事業参入となります。

プロスポーツチームには様々な特異な価値が存在します。 解りやすい例で言えば、 多くのファンを引きつけます。 同時にテレビやメデ ィア 、 インターネットを通して強力な発信を行うコンテンツ力も備えていますし、 パートナー企業を募集する上で、 様々な企業との連携も図ることが可能となります。 地元の行政と多くの接点を構築することも可能ですし、 何よりもわかりやすいものです。 例えば、 商談で一般企業の説明をするのと、 「プ ロスポーツチームのオーナー企業です」 と説明するのでは相手の認知度や、 信頼度には大きな違いがあることは理解しやすいかと思います。

期待が高まる米国サッカービジネス

先出のマンチ ェ スター ・ ユナイテ ッドオーナー現オーナーのグレーザー一家もサッカークラブで黒字をたくさん出して儲けるためにオーナーになった訳ではなく、 他にこの一家が手がけるビジネスに役立つ、 と考えたからです。 グレーザー一 家の 一 人がインタビ ュ ーで「マンチェ スター ・ ユナイテッドのオーナーであれば英国王室にも試合を見に来ませんか?と招待状が出せるけど、一般企業のままだと中々そう簡単には行かない」と話しています。

手前味噌で恐縮ですが、弊社が主催するハワイで開催するパシフィ ックリムカップの冠スポンサーも、 ハワイで事業展開をしたいと考え、ハワイで商談をする際に解りやすい名刺を手に入れたいから、 という戦略ももたれていました。少々短絡的ですが、 例えばMLSのインター・マイアミというチームのオーナー陣の一人にデビッド・ベッカム氏も参画しており、ベッカム氏とビジネス仲間になりたいから、ということでインター ・ マイアミのオーナーグループに参加できないものか?という問い合わせも多いそうです。また、 プロスポーツチームの資産価値もアメリカのスポーツでは成績によっ て昇格や降格がないため、 スポーツチームの価値が下落することはほとんどありません。

投資対象としてウォーレ ン・バフェット氏もマイナーリーグの野球チームのオーナーを務めているほどで、このようにスポーツならではの特異性が存在し、 それらを整理して理解をしますと、 プロスポーツチームに出資をしたり、 オーナーになることは特にアメリカでは非常に有益なことも多く、 これからも注目を浴びるものと思われます。

特に2026年に北中米にFIFAワールドカップが開催されることで、現在アメリカ国内におけるサッカービジネスの高騰は世界中より注目されており、このような視点でスポーツ観戦をされるのも面白いのではないかと考えます。

 

中村武彦

マサチューセッツ大学アマースト校スポーツマネジメント修士取得、2004年、MLS国際部入社。08年パンパシフィック選手権設立。09年FCバルセロナ国際部ディレクター就任。ISDE法科大学院国際スポーツ法修了。現東京大学社会戦略工学研究室共同研究員。FIFAマッチエージェント。リードオフ・スポーツ・マーケティングGMを経て、15年ブルー・ユナイテッド社創設。

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