プロスポーツから見る経営学

MLS選手の年俸

勝率に比例する?
高額年俸の意義とは

メジャー・リーグ・サッカー(MLS)の選手協会が、今年度の全選手の年俸(基本給)を公表しました。選手の年俸は通常は推定のものが多く、このように実際のデータが公表されることは珍しいのですが、MLS選手協会は、選手たちの待遇改善のためにあえて毎年公表をしています。

このデータによると、2022年度のMLS最高年俸選手は今夏イタリアのナポリ(セリアA)からトロントFC(MLS)に移籍したイタリア代表フォワードのロレンツォ・インシーニェの1400万ドルとなりました。また、2位はスイス代表ミッドフィルダーのジェルダン・シャキリの815万ドル、そして3位はLAギャラクシーフォワードで、元メキシコ代表のハビエル・エルナンデスの744万ドルと続きます。

ちなみにスペインのレアル・マドリードからロサンゼルスFCに加わったウェールズ代表FWガレス・ベイルは23位の約238万ドルとなっています。この数字だけを見るとMLSは異常に高い年俸を払うリーグに思ってしまいます。実際、今年MLSで100万ドル以上の年俸を受け取っている選手は106人を超えました。このように高額なお金を払えば試合に勝てるのでしょうか。はたまたリーグ戦で優勝できるのでしょうか。

今回発表されたMLS選手たちの給料を見ると、トロントFCが選手に支払っている総年俸が最も高額です(約3000万ドル)。この時点で非常にいびつであることに気が付くと思います。チームの総年俸3000万ドルの内、約46%ものお金をインシーニェ選手に支払っているのです。

MLSでは「サラリーキャップ制(給料の上限が決められている制度)」を導入しており、リーグで定めた以上の給料を選手人件費に使用してはいけないことになっています。それではなぜ選手たちはこのような高給な給料をもらえるのでしょうか。

今年の最高年俸額を記録した、フリーでトロントに所属するロレンツォ・インシーニェ

特別指定選手制度を活用する各チーム

実は、スター選手の獲得を目的に、このサラリーキャップの対象外として各チーム3人まで好きなだけ給料を支払って好きな選手を獲得してよい「特別指定選手制度」というものを導入しています。それゆえ、インシーニェ選手をはじめ、冒頭で列挙した選手たちは皆、この枠が適用されているのです。

良い選手は給料が高いので高い給料を払うチームが強そうなイメージを持つかと思います。しかし、トロントFCの総年俸はMLSの中でトップにも関わらず、22年度のリーグ戦の順位はビリから2番目だったのです。実際にMLSのリーグ戦で総合優勝したのはロサンゼルスFCで、総年俸は6位の約1900万ドル。そして総合2位だったフィラデルフィアユニオンの総年俸はなんと約1000万ドルで、リーグ内27位と選手人件費をかなり抑えていました。

ここでリーグ戦での勝ち点1を獲得するに際していくら選手人件費を使っているか計算してみると、フィラデルフィアユニオンは勝ち点1獲得するのに約15万ドル、ロサンゼルスFCは約28万ドル、そしてトロントFCに至っては約95万ドルも払っている計算になります。

先述の通り、MLSでは基本的には全チーム、同じサラリーキャップで選手をそろえないといけないルールです。ここに3人の特別指定枠選手を加えると、チーム間で選手の総人件費に大きな差が出ます(選手人件費トップのトロントFCは約3000万ドル。最も人件費を抑えたのはNYレッドブルズの約960万ドル)。

ほとんど選手の人件費をかけていないフィラデルフィアユニオンが総合順位2位になり、最もお金をかけたチームがほぼ最下位。これは選手の獲得・編成をつかさどる「強化部」という部署の難しさが如実に顕在化してしまったともいえます。

視点を変えるとスポーツはより面白くなる

どのスポーツにおいてもいえることですが、チームの選手との契約を行う「強化部」の仕事はチームを効率的に、継続的に強くすることです。その上、選手人件費はプロスポーツチームの中で最も管理する予算が大きく、結果に直結する保証ができない部署です。なぜなら勝敗を保証できないのがスポーツの醍醐味(だいごみ)だからです。

そのために「ゼネラルマネジャー(GM)」という肩書きの人材がこの部署を統括し、なんとか勝てる仕組みを構築しようとしますが、このGMの腕前にもますます大きな注目が集まることとなります。チームによっては大きな予算をかけて勝利や優勝を目指すだけに、GMや強化部にのしかかる責任も大きくなります。

MLSのみならず、こうした観点でプロスポーツに今後注目をしてみるとまた一味違ったチーム間の戦いが見えて面白いのではないでしょうか。

 

 

中村武彦

マサチューセッツ大学アマースト校スポーツマネジメント修士取得、2004年、MLS国際部入社。08年パンパシフィック選手権設立。09年FCバルセロナ国際部ディレクター就任。ISDE法科大学院国際スポーツ法修了。現東京大学社会戦略工学研究室共同研究員。FIFAマッチエージェント。リードオフ・スポーツ・マーケティングGMを経て、15年ブルー・ユナイテッド社創設。

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