ハートに刺さるニュース解説

選挙とフェイクニュース

中間選挙に異常事態
「内戦」懸念の動き

11月8日投開票の米中間選挙を前に、当日前後に、何らかの暴動が米国内で起きるのではないかという懸念が広がっている。

分断を深める右派左派の間の「内戦(civil war)」という言葉が含まれる投稿は、ソーシャルメディア上で激増している。つまり、民主主義の根幹である選挙が安全に行われない可能性が浮上している。

まるで、民主主義を目指す未発展の国のような状況だ。自由世界のリーダーとされてきた米国は、その信頼性を問われる異常事態に陥っている。

Civil Warと大文字で表記した場合は、米戦争史上、最大の死者を出した南北戦争を意味する。小文字のcivil warであっても、南北戦争の影を宿す「内戦」という言葉は、米国人にとっては不穏な響きだ。

トランプ邸家宅捜索
「宣戦布告」と反発

今年8月、米連邦捜査局(FBI)が、フロリダ州にあるトランプ前大統領の自宅「マール・ア・ラーゴ」を捜索した。

捜索があった事実は、トランプ氏がソーシャルメディアで発表。ニューヨーク・タイムズによると、その後、ツイッターで「内戦」という言葉が、直前までの3000%上昇したという。

同じような現象は、フェイスブックやテレグラムなどソーシャルメディア全般ほか、ラジオ番組やポッドキャストにもみられた。

トランプ邸の捜索は、トランプ支持の極右派の目には、リベラル派のバイデン大統領とその政権がFBIを使った「宣戦布告」と映った。実際に、捜索直後はトランプ支持者が敷地の外に集まり、捜索への抗議デモを行った。

一方、リベラル派市民は、トランプ派が「宣戦布告」と捉えるだろうと予測し、内戦が起きるかもしれないと懸念した。つまり、政治的に極端に分断した右派左派の双方が、「内戦が起きるかもしれない」とソーシャルメディアに投稿したわけだ。

起こる内戦の現象
司直当局も脅迫

それでは実際に「内戦」とは、どんな事象を指すのだろうか。それはまだ不透明だが、想像しうる現象はすでに起きている。

昨年1月6日、ワシントンの連邦議会議事堂を、トランプ支持者が襲撃したのは、その最たるものだ。暴徒数千人が議会民主主義の本丸に侵入し、破壊活動をしたほか、当日だけで5人の死者が出た。

これは、2020年大統領選挙に敗北したトランプ氏が、「選挙は盗まれた」と主張し、バイデン氏が勝利したという選挙結果を承認する議会の手続きを阻止しようとしたためだ。

また、前述したトランプ邸の家宅捜索の直後、極右の思想を持つとされるリッキー・シファー容疑者がオハイオ州シンシナティのFBI支局を武装して侵入しようとした。同容疑者は、侵入前に警察と銃撃戦になり、射殺された。

同じ頃、トランプ支持者や共和党は、FBIや司法省のほか、捜索を許可した判事などを激しく非難。危害を加えるという脅迫も相次いでいた。法の秩序と市民を守る仕事をしている司直当局の人々が、市民から逆に脅迫されるという異常事態だ。

デマや誤情報に注意
発信源確認の習慣を

中間選挙の結果が公正ではないと主張する市民が現れ、何らかの形で暴力行為を働いたり、対立する候補者や支持者を攻撃することは、大いに考えられる。しかし、どこでいつ、ということは誰にも想像はつかない。

注意すべきことは、誤情報や偽情報、デマやフェイクニュースに決して惑わされてはならない、ということだ。20年大統領選挙でも、トランプ陣営は各州で、票の再カウントを要求して裁判に訴えた。しかし、勝訴したケースは一件もなかった。

ソーシャルメディアで、少しでも疑いがある情報があれば、発信源などを確認してからシェアする習慣をつけなければならない。

米国で選挙が実施される度に「内戦」が懸念される事態が続けば、その悪影響は図り知れない。投票率が低下する可能性もある。世界的にも自由主義の旗手を維持することは不可能なことになるだろう。

 

 

 

津山恵子
ジャーナリスト。
「アエラ」などにニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。
フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOなどにインタビュー。
近書に「現代アメリカ政治とメディア」(東洋経済新報社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

 

 

 

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