ハートに刺さるニュース解説

中間選挙を控えたバイデン政権

バイデンが共和党批判
中間選挙を強く意識

ジョー・バイデン米大統領は9月1日、ペンシルベニア州フィラデルフィアのインディペンデンス国立歴史公園で演説を行った。11月の中間選挙を強く意識したとみられ、24分の演説のうち、ドナルド・トランプ前大統領と彼を支持する保守派共和党員への批判だった。

トランプ氏は連日のように、バイデン政権と民主党を批判しているが、バイデン氏が逆に批判するのは極めて珍しい。リベラルと保守の双方から「分断」を深めている様子が浮き彫りになった。

 

MAGA共和党を非難
民主主義を守る訴え

「トランプ氏とMAGA(Make America Great Again)と呼ばれる同氏支持者は、米国の根幹を脅かす過激主義を象徴している。共和党員の大多数がMAGA支持者でないことは分かっているものの、共和党は今日、トランプ氏とMAGA共和党によって支配され、駆り立てられ、威圧されている」と、バイデン氏は述べた。

同時に、「MAGA共和党は、アメリカ合衆国憲法を尊重せず、法の支配を信じていない。彼らは自由な選挙の結果を受け入れることを拒否した。MAGA勢力はこの国を後退させようと決意している」などと踏み込んだ。

さらに民主党員、無党派、共和党主流派にかかわらず、MAGA共和党から民主主義を守るべきであるとした。

バイデン政権の実績と
成立させた法律を強調

また9月に入り、11月の中間選挙を意識して、バイデン政権が成立させた法律について強調した。

まず、2021年11月、「より強靭な米国を築く」として「インフラ投資雇用法」を成立させた。道路や橋、高速インターネットなどのインフラの再構築に着手する。

また、有効な銃規制としてはビル・クリントン政権時以来28年ぶりとなる「超党派のより安全な地域社会法」を成立させた(22年6月)。

メディケアによる製薬会社との薬価引き下げ交渉を可能とする「インフラ削減法」(22年8月)も発効。バラク・オバマ政権時以来の主な医療制度改革にも取り組んだとした。

最も注目されたのは、インフレ削減法に含まれる「気候変動対策法」となる。バイデン氏は、「クリーンエネルギーの未来を創造し、地球を救うことができると信じている。そのために、われわれはこれまでで最も重要な気候変動対策法を可決した」と述べた。電気自動車(EV)関連の税額控除などが盛り込まれた。

トランプ氏に捜査の手
中間選挙への両者の動向

一方、トランプ氏と彼の支持者は、米連邦捜査局(FBI)がフロリダ州の自宅「マール・ア・ラーゴ」を家宅捜索したことに対し、反発を強めている。司法省が裁判所に対し公開を申し立てた捜査令状と押収品リストの内容は、全米を震撼とさせた。

令状の容疑は、国家安全保障に関する機密情報を無許可で保持することなどを禁じた「スパイ防止法」違反を含む3件。押収品リストは33点に及び、機密文書を含む20箱以上。11組の機密文書のうち、5組は「最高機密」、ほかは「機密」などと記載されていた。

実は、トランプ氏を法で裁こうという複数の捜査が全米各地で進んでいる。主なものは、①昨年1月6日に発生した連邦議会襲撃事件に関する下院特別委員会の調査②ニューヨーク州検察当局によるトランプ氏の会社「トランプ・オーガニゼーション」の詐欺案件についての調査③20年大統領選挙の後、トランプ氏がジョージア州務長官に電話し、当選するための票を「見つける」ように要求したとされる刑事事件捜査――などである。

こうした一連の調査・捜査があるため、FBIの家宅捜索は、トランプ氏が逮捕されるタイミングが近いという印象を与え、米メディアが一斉に報じた。

トランプ氏は「自分が大統領権限で機密解除した」と反論している。

バイデン氏は、残された2年の政権の生き残りをかけた中間選挙に向けて、政権の実績をアピールし続けるとみられる。これに対し、トランプ氏も擁立した候補者を当選させて、共和党全体に対して影響力を見せつけたいもくろみである。

 

 

 

 

津山恵子
ジャーナリスト。
「アエラ」などにニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。
フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOなどにインタビュー。
近書に「現代アメリカ政治とメディア」(東洋経済新報社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

 

 

 

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