ハートに刺さるニュース解説

米議会襲撃事件の調査委員会

トランプ氏の責任追及
衝撃的な証言が次々に

明らかになっていく議会議事堂襲撃事件の事実

昨年1月6日に起きた米議会議事堂襲撃事件の下院特別調査委員会が8回の公聴会を7月末に終え、夏休みに入った。同委員会は、暴徒が議事堂を襲った事件について、トランプ前大統領の「責任」を徹底的に追及し、衝撃的な証言が次々に出ている。奇しくも今年は、ニクソン元大統領の陰謀を暴いたウォーターゲート事件から50年。委員会の最終報告によって、トランプ氏の訴追につながれば、「第2のウォーターゲート事件」になる可能性もある。

公聴会で数々の証言
トランプ氏の側近からも

事件は昨年1月6日、2020年大統領選挙で勝利したバイデン氏の当選を承認する上下院合同会議をきっかけに起きた。トランプ氏は「選挙の(票が)盗まれた」と主張し、同時刻にホワイトハウス前で支援者の集会を開いた。さらに「議事堂で会おう」と呼び掛け、支援者が議事堂に集合し、暴徒化して議事堂内に侵入した。支援者と防御に当たった警官双方に死亡者が出た。

これまでの公聴会で明らかになった衝撃的な証言は以下となる。

・トランプ氏はツイッターで「大統領選での敗北は統計上あり得ない」と主張。「大規模な抗議をワシントンDCで、1月6日に行う」と支持者が奮い立つような軍隊的な調子で集合を呼び掛けていた。
・トランプ氏は、議事堂の暴徒に加わろうとしていた。大統領専用車内で、シークレットサービスからハンドルを取ろうとし、阻止しようとしたシークレットサービスが、暴行を受けた。
・トランプ氏は議事堂襲撃が始まってから186分もの間、警察当局にも国家安全保障担当にも連絡や指示をせず、テレビを見て苛立った様子を見せていた。
・暴徒が縛り首を要求し、首吊り台まで用意されていたペンス前副大統領が議事堂を脱出しようとしていた際、シークレットサービスの間で命を落としかねないという不安が広がり、「家族に電話しよう」という声が上がった。
また、事件から時間が経ったためか、以前は証言を拒んでいたトランプ氏の側近らが、積極的にトランプ氏の当日の行動を詳らかにする証言をしている。

ウォーターゲート事件で
ニクソン大統領は辞任へ

奇しくも今年6月17日、ニクソン米大統領(当時)を辞任に追い込んだウォーターゲート事件の発生から、50年を迎えた。民主党本部への一枚のドアが破られていたという侵入事件だったが、ニクソン大統領(当時)と与党がニクソンの再選をかけた陰謀を暴く展開となった。ニクソン氏は地滑り的勝利を収めて再選を果たした。しかし、上院超党派の調査委員会が、事件の追及の手を緩めなかった。米紙ワシントンポストも陰謀を暴く記事の連打をやめなかった結果、ニクソン氏は辞任に追い込まれた。

弾劾や訴追の可能性
米国のレガシーの行方

ワシントンポストが開いた50年記念イベントには、事件を報道した名記者コンビ、カール・バーンスタイン氏とボブ・ウッドワード氏が登壇した。イベントでは、バーンスタイン氏が、議会議事堂襲撃事件に触れ、民主主義の危機を指摘し、「現在も(ウォーターゲート事件当時と)同様の状況にある」と語った。

一方、ウッドワード氏は、暴徒が大統領選の当選者であるバイデン氏の承認手続きを議会が行っていた日を狙ったことから、「悪魔的に天才であるトランプ氏とその仲間は(民主主義)制度の弱点を見つけた」と指摘した。「政府の正当な機能を覆すことは犯罪だ」と語った。

下院の調査委員会は秋に最終報告書を出す。内容によってはトランプ氏に対し3回目の弾劾もあり得るという。あるいは、司法省が報告書を踏まえて捜査を行い、トランプ氏を訴追する可能性もある。かつて大統領だったトランプ氏が訴追されれば、ウォーターゲート事件のレガシーが、米国では健全に生きていることがわかるだろう。それは「大統領であっても、法を犯せば裁く」というレガシーだ。

半世紀前、首都ワシントンの地方紙だったワシントンポストは、デジタル版購読者が全米に拡大し、今や全国紙となった。議会議事堂襲撃事件についても果敢な報道を続けている。

 

 

 

 

 

津山恵子
ジャーナリスト。
「アエラ」などにニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。
フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOなどにインタビュー。
近書に「現代アメリカ政治とメディア」(東洋経済新報社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

 

 

 

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