プロスポーツから見る経営学

パシフィック・リム・カップ再開

大会復活に向けた
クリニック開催の意義

先日、弊社ブルー・ユナイテッドが運営する「パシフィック・リム・カップ」という国際サッカー大会をハワイで行ってきました。日米のプロサッカーチームをハワイに招待し、国際大会を開催するものです。2018年、19年と続けて開催したものの、コロナ禍で20年、21年は留保となっていました。そこでコロナ禍の規制が少し緩和された今年は、プロのチームたちによる国際大会の開催はまだ難しくても、このイベントの中に毎年含まれるサッカークリニックだけでも開催しようということになりました。

もともとこの大会はプロたちの試合だけではなく、その前後に子供向けのサッカークリニックやVIPパーティー、記者会見、高校生のオールスター戦なども実施され、ホノルルマラソンのサッカー版のような、1週間以上にわたって開催されるサッカーフェスティバルとなっています。今年はこの中のクリニックだけを開催しました。

7月9日、ハワイの青空の下で子供たちに向けたサッカークリニックが催された

このサッカークリニックは子供たちは無料で参加でき、指導してくれるコーチにはハワイ出身で元メジャーリーグサッカー(MLS)の選手2人と、元日本代表の山田卓也氏、そして東京五輪でなでしこジャパンの監督を務めた高倉麻子氏の4人を招きました。

18年はこのクリニック開催の告知を出した後、2日間で約300人の募集枠が売り切れ、19年も告知後20分で完売したほど大人気のイベントです。間が空いたので少し不安だったものの、今年は告知の2時間後には過去最大の700人の登録に達しました。この反響は素直にうれしかったものです。

開催に際して掲げた、5つの目標

今回クリニックを開催するにあたって5つほど目標を立てていました。

①2年間コロナで間が開いたものの「パシフィック・リム・カップ」を忘れないでもらうこと、②23年には「パシフィック・リム・カップ」にまたプロチームを連れてくる意気込みを目に見える形で見せること、③久しく国際イベントの運営から離れているスタッフたちがまた一同に介して感覚を取り戻してもらうこと、④新しいメンバーを試してみること、⑤全員が「パシフィック・リム・カップ」を来年復活させるんだと信じること。

これら5つは達成できたのではないかと感じています。大切なことはもちろんこのクリニックの成功ですが、それに甘んじることなく、これをどう活かして23年につなげていくことができるのか。これが鍵になると考えています。

子供たちの未来を切り開く大会を目指して

このクリニックは非常に意義深く、18年に開催した際、地元のハワイ大学女子サッカー部の選手が直々にお礼に来てくれたことがありました。お礼の理由を聞くと、08年の私がまだMLSに勤務していた時代に立ち上げたこの大会の前身となるプロの試合を観戦したことで、当時10歳だった彼女はサッカーを続けたいという気持ちになったそうです。そして12年に再び開催した時も観戦に来てくれ、それをサッカーを続ける活力にし、18年にはハワイ大学女子サッカー部の主力になれたとのことでした。

この大会自体、多くの子供たちに来場してもらうために入場料は非常に低く設定していますが、プロスポーツが存在しないハワイにおいて中長期に良い影響を与えることができることは本当にうれしいことだと、今回も楽しそうにサッカーをする子供たちを見て改めて思いました。ぜひ本大会のパートナーになってくださる企業さまがいらしたらお声掛けください。

 

 

 

 

中村武彦

マサチューセッツ大学アマースト校スポーツマネジメント修士取得、2004年、MLS国際部入社。08年パンパシフィック選手権設立。09年FCバルセロナ国際部ディレクター就任。ISDE法科大学院国際スポーツ法修了。現東京大学社会戦略工学研究室共同研究員。FIFAマッチエージェント。リードオフ・スポーツ・マーケティングGMを経て、15年ブルー・ユナイテッド社創設。


スポーツマーケティング
ひとくち入門コラム⑮

スポーツマーケティングにおけるアクティベーションとは、スポンサーシップで手にした権利を行使することです。

例えば、看板を試合会場で掲出した際、「誰かが見てくれるだろう」という認識だけではもったいなく、誰が、どれくらいの人々が見て、実際に認知してくれたのかをアンケートを取ることで測定しないといけません。よく野球の試合でバッターとピッチャーの白熱した対戦に気を取られて、看板はどのようなものがあったかきちんと見ていなかったということはよくありますよね。となると看板を出すだけで事足りない可能性があるので、他にも権利をチームから入手した方がよいだろうという判断になります。あるいは、看板を出す位置を指定しないといけないのかもしれません。周囲に他の会社の看板がたくさんあっても、埋もれてしまわないような場所に設置してもらうことが大切になってくるでしょう。

このように、自社マーケティングを交渉する段階から、目的に沿ってどのように権利を行使しようかというイメージまで沸かせた上で、いろいろと検討することが必要となってくるのです。

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