ハートに刺さるニュース解説

BTSがバイデン大統領と意見交換

BTSが受けた差別
バイデン訪問への道

韓国の人気グループBTSが5月31日(米東部時間)、ホワイトハウスに招待され、バイデン米大統領と、急増するアジア系へのヘイトクライムについて意見交換した。米国人でもないK─POPの「ジャイアント」がなぜ、米大統領に招待されたのか。

オーバルオフィスを訪れたBTS(写真はWhite Houseのビデオからのスクリーンショット)

ヘイト犯罪にツイート
BLM運動団体にも寄付

昨年3月16日、南部ジョージア州アトランタのマッサージスパが白人男性に次々に銃撃され、8人が死亡、うち6人がアジア系女性だった。特定の人種を狙ったヘイト犯罪であるとされ、アジア系コミュニティーを震撼(しんかん)させた。

BTSは直後、ツイッターで英語と韓国語の声明を出している。

「愛する人々を失った方々に深い哀悼の意をお送りします。私たちは、あなたたちの悲しみと怒りを感じます」

「私たちもアジア系として偏見にあった時のことを思い出します。何の理由もなくののしられることに耐えなくてはならず、見た目についてからかわれました。さらに『アジア系なのに、なぜ英語を話すのか』とさえ聞かれました」

「私たちは、人種差別に対して立ち上がります」

このツイートは6月4日現在、250万人が「いいね」をし、100万人がリツイートしている。

また、2020年5月、中西部ミネソタ州で黒人男性ジョージ・フロイドさんが白人警官に首を圧迫されて死亡。「ブラック・ライブズ・マター(BLM、黒人の命は大切だ)」運動が全米で沸き起こった際も、BTSは運動のきっかけを作った団体に100万ドルを寄付した。

米国の社会的問題に声明
ホワイトハウスも注目

K─POPのグループはブランドやイメージを保つため、発信する情報には細心の注意を払うという。アジアの有名人が米国の社会的問題に声明を出すのは、ほとんど聞いたこともない。にもかかわらず、BTSは、人種差別に反対するという立場を明確にした。

ホワイトハウスが彼らを招待したのは、こうした過去の実績に注目したためだ。しかも「アーミー」と呼ばれる熱心なファンが世界中にいる。

「あなたたちの偉大な才能だけでなく、発信しているメッセージが重要なのです」と、バイデン氏。ツイッターで公開したビデオで、BTSに語った言葉だ。バイデン氏はこの日、BTSを大統領執務室(オーバルオフィス)に招待した。各国大使や閣僚以外、米国内のアーティストでさえ入ったことはないだろう。

さらに、アジアでしか知られていない「指ハート」で記念撮影した。それに先立つホワイトハウス記者会見室の記者らは、BTSが演壇に立つと一斉にスマートホンで撮影した。

アジア系のミュージシャンで招待されたのも「極めてまれ」で、「初めて」尽くしの一日だった。

人種差別と戦うメッセージを世界に発信

5月31日は、アジア系アメリカ人のルーツを学ぶ「アジア系米国人・ハワイ原住民・太平洋諸島民(AANHPI)文化遺産継承月間」の最後の日。BTSがバイデン氏に会い、人種差別と戦うメッセージを、世界に発信するにはふさわしい日だ。今年11月にある中間選挙を前に、若い有権者にアピールする狙いもあっただろう。

ニューヨーク在住のライター・作家でBTSのファンでもある黒部エリさんは、こう指摘する。

「BTSもアジアから海外に進出する際、アジア系というだけでなく、お化粧をしているというルックスについても批判されたことがあった。パキスタンでは同性愛をプロモートするとされて、看板が撤去されたことさえあった。つまり、人種だけでなく、同性愛に対する偏見も重なっていたんです」。

米連邦捜査局(FBI)によると、アジア系に対するヘイト犯罪は新型コロナ感染拡大と時期を同じくして20年、前年比73%増の279件となった。しかも、被害者の7割近くが女性に集中している。

リーダーのRMさんは、大統領に語った。

「私たちは新型コロナの感染拡大によるヘイトクライム拡大の対策法案に署名してくれた大統領の決断に感謝しています。だから少しでもお力になりたかったのです」。

 

 

 

 

 

津山恵子
ジャーナリスト。
「アエラ」などにニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。
フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOなどにインタビュー。
近書に「現代アメリカ政治とメディア」(東洋経済新報社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

 

 

 

関連記事

NYジャピオン 最新号

Vol. 1244

オーェックしよ

コロナ禍で飲食店の入れ替わりが激しかったニューヨーク。パン屋においても新店が続々とオープンしている最近、こだわりのサワードウ生地のパンや個性的なクロワッサン、日本スタイルのサンドイッチなどが話題だ。今号では、2022年から今年にかけてオープンした注目のベーカリーを一挙紹介。

Vol. 1243

お引越し

新年度スタートの今頃から初夏にかけては帰国や転勤、子供の独立などさまざまな引越しが街中で繰り広げられる。一方で、米国での引越しには、遅延、破損などトラブルがつきもの、とも言われる。話題の米系業者への独占取材をはじめ、安心して引越しするための「すぐに役立つ」アドバイスや心得をまとめた。